タイトルなんてありません。
単なるエロ連載です。
20071022

      <2>


「…小夜?」
『抱いて…』
咽喉の奥に詰まった言葉を、小夜は唇にのせる事が出来ないまま、膝の上に置いた両手をきつく握り締めた。自分を覗き込んでくる優しい眼差しの前には、その欲望はとても浅ましいもののような気がしてきて、真っ直ぐにハジの顔を見詰め返す事が出来ない。
理由など無かった。
ハジが好き。こんなにも…。隣に並んで、その横顔を見ているだけで、小夜の体は正体の知れない熱に侵される。
やはり、自分は酔っているのだろうか…。
その力強い腕に抱かれたくて…
その腕に抱かれた瞬間の事を思い出すだけで、小夜の体の奥で何かが熱く潤うのが解る。
それもこれも全て酔いのせいだというのだろうか…。
ぐらりと視界が歪む、その向こうで美しい青年が心配そうな眼差しを向ける。
「小夜?」
「ねえ、ハジ…」
「…なんです?小夜…」
「……………」
「…小夜?」
何かを言いかけては再び気まずそうに口を閉ざす小夜の態度にハジは眉間の皺を一層深く寄せて、けれどそんな小夜に対しても決して問い詰めるような真似はせず、あくまでも穏やかな声音でその名前を呼んだ。
「……どうしました?小夜…」
「…私」
ハジの指先がそっと小夜の頬に触れる。
シュバリエであるハジの指先は冷たくて…
熱を孕んだように上気した小夜の頬に、彼のひんやりとした指先が触れる瞬間…思いがけない刺激に小夜の肩がビクンッと震えた。
「…小夜」
「…少し、…苦しいの……」
俯いたまま、小夜は小さく告げた。
ハジはそんな少女の頬を愛しげに撫で、その可憐な面に落ちかかる髪を労わるように耳に掛けてやる。
「ベッドで休んで下さい。…ジョエルには挨拶も済んでいるのですから、もうこのまま休んでも構わないでしょう…」
ハジは心配そうな表情を少しだけ緩め、まるで小夜を安心させるかのように微笑んで見せた。
立ち上がり、スツールに掛けた少女の体を抱き上げようと腕を回す。
「さあ…」
「…駄目。ハジ…ッ」
これ以上触れられたら、きっと自分を抑えられなくなってしまう。
こんなに体が熱くなってしまっている事に気付かれたら、もう自分はどんな顔をしてハジの前に立ったら良いのか分からなくなってしまう。
「あ、…ごめん…なさい。ハジ…、本当に大丈夫なの…一人で、立てるから…」
咄嗟に振り払った腕をそっと押し戻して、小夜はそっと立ち上がった。
後ろ手に洗面台の端に縋るように手を突いて、小夜は跪くハジを見下ろした。
青い美しい瞳が小夜を見上げ、まるで自分の秘めた欲望を見透かされるような錯覚に襲われた小夜はきゅっと唇を噛んで、その真っ直ぐな視線から逃れるように視線を伏せた。
「失礼しました。貴女が…触れるなと仰るならば…」
彼の静かな声が静まり返ったサニタリーに響く。
違うの…
そうじゃないの…
ハジ…、私…
流れるような仕草で立ち上がるハジが、僅かに頭を垂れて背を向けようとする。
「…違うの。…ごめんなさい…ハジが嫌なんじゃないの…」
「小夜…」
「私…やっぱり少し飲みすぎたのかも知れない…」
こんな風にドレスアップして二人で人前に出るなんて事今までになかったから…。
隣に寄り添うハジの、その高い背に良く似合う細身のタキシード。
見慣れないそんな姿に、いつになく胸がドキドキして…。
「シャワーを使うのでしたら、私は…」
ハジの冷静な横顔はどこか寂しげにも見えて…小夜を気遣い出て行こうとするハジの腕に彼女は無意識に指を掛けた。
「…違うの。……行かないで、ハジ…私…」
引き留めてどうしようと言うのか、小夜にも分からない。けれど、このまま、誤解を植え付けたまま、彼を行かせたくはなかった。
「…小夜?」
「………ハジ」
「…………」
「…違うの。ハジ…」
縋りつくように、小夜の指がハジの腕にきつく食い込んで、ハジは求めに応じるようにゆっくりと向き直り、既に泣き出しそうに潤んだ黒い瞳の前に再び跪いた。
「そんな表情をしないで…小夜…。本当にご気分が優れないのでないなら…良いのです」
優しく前髪を梳く指先を、今度はもう払うような真似はせず、小夜は覗き込むハジの瞳を真っ直ぐに捉えた。
「…嫌いにならないで…。ハジ…」
「貴女を嫌いになど…」
言い掛けた青年の唇を、小夜は自ら屈み込むような仕草でそっと塞いだ。
一瞬で離れようとする唇を追ってハジの腕が小夜の首筋を押さえ、逃げ場を無くした少女の瞳を覗き込む。
うっとりするほど魅惑的な青い瞳。
その真摯な色の前に、小夜は言葉を失う。
「あ、…ハジ」
触れる程間近で、ハジが囁く。
「私が貴女を嫌いになろう筈がありません。それは解っておいででしょう?」
答える隙もなく、首筋を引き寄せられ、彼の形の良い唇が再び小夜の柔らかな口唇を塞いだ。薄く開いたその隙間からざらりとした舌先が進入し、小夜の歯列をなぞる。誘うように蠢くその長い舌に翻弄されて、小夜は息が詰まるのを感じた。けれど、戸惑いとは裏腹に小夜の体は漸く与えられたその情熱的な愛撫に震えた。
小夜の体の深いところで、何かが甘く熟れてゆく。それはじんわりと体を潤し、その痺れるような刺激が四肢の末端まで広がってゆく。
長い口付けを受けるうち、小夜の体は堪え切れようもなくゆるゆると砕けて磨かれたサニタリーの床に崩れ落ちた。
細い指が助けを求めるようにハジの肩先に縋りつくのをハジは腰を抱くようにして支え、そっと唇を解放した。
二人の口唇の間を細く唾液が糸を引き、零れる吐息は既に誤魔化しようもなく熱に浮かされていた。
「貴女は男と言うものを解っていらっしゃらない…小夜…」
「……ハジ…」
「………そのように愛らしい姿で、そのような仕草で…。どれ程私を誘惑すれば気が済むと言うのです?」
「…誘惑、なんて…してないわ…。私…」
ハジの腕が、強引にサニタリーの床から小夜の体を抱き上げる。
そのまま広い洗面台の上に座らせると、小夜の両足を広げるように腰を台に押し付け、逃れられないように彼女の前に立った。
先程小夜の指が解いた黒髪が、その整った面を僅かに隠す。落ち掛かる前髪の下から覗くその瞳は、小夜と同じく熱に潤んでいたけれど、その澄んだ青が宿す光は切なく労わりに満ちている。
「…小夜」
「………嫌いにならないで…」
こんな私でも…
小さな声で呟いて、小夜はハジの前髪をそっと指先で整え、首筋を抱き寄せた。
「…………」
「小夜?」
「ハジが…欲しくて、……おかしくなりそう。……私」
ぎゅっとその広い背中にしがみ付く。
「それは…私の台詞です。小夜…」
しなやかで長いハジの腕が、小夜の望みどおりその細い腰を抱き寄せ、再びしっとりとした唇を重ねる。どちらともなく抱擁が激しさを増し、小夜はきつく瞼を閉じた。濡れた舌を絡ませあう、その間にもハジの手は優しく小夜の背を撫でている。
繊細な指先が彷徨うように小夜の背を辿り、細く剥き出しの肩からリボンで編み上げられた背中のラインを確かめる。何度も往復しては、やがて躊躇いがちに細いリボンを解き、器用に少しずつ緩めてゆく。
体を締め付けるものが取り払われて、小夜は逆にほんの少し体を強張らせた。
そんな僅かな変化をハジは敏感に察すると、キスをほんの少しずらして、小夜を安心させるように微笑む。間近で微笑まれるだけで、小夜は全ての抵抗力を失ってしまったかのように体の力が抜けてしまう。
両足の狭間その最も奥まった場所が、じわりと湿り気を増し、小夜はまだそれを知られてもいないのに、羞恥に顔が上せるのが解かった。
「…緊張しないで」
小夜の羞恥とは対照的な冷静な声音。
小夜は、彼の良く響く美声が徐々に熱を孕んでゆく時の事を思い出していた。
美しい青年に組み敷かれ、小夜自身もまた同じように熱に浮かされながら、次第に熱を帯びてゆくハジの吐息を素肌に感じるだけで、いつも小夜の心は歓喜に満たされてその頬を涙が伝う。愛しい男の前に全てを晒しても、そうして求め合う事は小夜にとって悦びだった。
けれど、今は皓皓と照明が照らすサニタリーの洗面台に座らされたまま、こうして一方的にハジの愛撫を受けている事が小夜の羞恥を煽ってやまない。
「だって…、こんな…場所で…私…」
「小夜…」
小夜の脇に触れた指先が、断りもなくドレスのファスナーを下ろすと、さも当然と言った迷いの無さでするりとその下に潜り込む。緩めたとは言え、窮屈なドレスの下で、ハジの指は彼女の肌を求めるように蠢いた。薄い絹のレースがあしらわれたスリップの胸元を探り、その上から形の良い膨らみをすっぽりと掌に包み込む。ゆるゆると弄られる…スリップとブラジャーの生地を隔てたそのもどかしい刺激に、小夜は『ああ…』と切なく泣いて、恋人の肩を抱き締めた。
ハジの唇が湿った息を吐いて耳朶を甘噛みする。
胸に置かれた反対の手がそっとスカートの裾を捲くり、太股に触れる。
絹のストッキングの滑らかな感触を楽しむようにさわさわと撫で上げられると、小夜はたまらずに両足を閉じようと膝に力を入れた。しかし、ハジの細い腰がそれを阻み、尚も執拗に、ハジの掌は小夜の太股をさ迷っている。
「…待って。…ハジ、駄目…」
目的を持つかのように…次第に奥にまでその指先を届かせ、内側に入り込もうとする腕を、小夜は押し止めた。
ガーターベルトの金具の位置で指が止まると、どうして?と、問う様なハジの瞳が間近に迫り、小夜は頬を真っ赤に染めながらも嫌々と首を振る。ストッキングの端のレースを辿るように、ハジの指が優しく小夜の太股を撫でている。
素肌の上に彼の指先のひんやりとした感触が触れる。
「小夜…」
許しを請うように、ハジが小夜の耳元でその名前を囁いた。
「ハジ…」
どう答えて良いのか戸惑う内に、ハジの指先がすっと小夜の一番奥まった場所を撫でる。
華奢なデザインの下着の、その少ない布地の部分をハジの指が緩々と擦ると、既に粘質の体液がその絹を濡らしている。
「…小夜」
その静かな響きの中に、感嘆の吐息が混じる。
「んんっ…あ、ああ…っ…ハ…ジッ…」
敏感な割目を繰り返しハジの指先が擦るのに合わせ、とうとう堪え切れずに小夜の唇から悲鳴にも似た喘ぎが零れた。
「小夜…」
名前を呼び、その長い指を絹の下に忍ばせる。
ハジはその淡い茂みを掻き分け、優しく彼女の柔肌に触れた。
「…ん…ふ…」


  
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