ホワイトデーその2


小夜は薄暗くした寝室のドアを気遣う様にそっと開けた。
音を立てない様に注意しながら体を滑り込ませると、手にしていたトレイを枕元のサイドボードに置いた。トレイの上には、粥の入った一人用の土鍋とガラスの器に盛り付けた桃の缶詰。そして水で満たされたグラス。薬の入った紙袋。
小さな子供でもあるまいし…果たして大人の男性が桃の缶詰を喜ぶかどうかは解らなかったけれど……。
それでも、お粥以外に何を準備したら良いのか…思いつかなかったのだ。

ベッドを覗き込むと、ハジは静かに眠っていた。
薬が効いたのだろうか…呼吸は先程よりも少し楽そうに感じられる。
熱はどうだろう…細心の注意を払ってそっと指を伸ばすと、冷却ジェルを張った額はひんやりとしているけれど、首筋や体は燃える様に熱い。とにかく眠る事が一番の薬だと思い、眠っている間は起こしてしまわない様に気を付けていたけれど、流石に外も薄暗くなりかけて、そろそろ起こして何か口にして貰わないと心配になる。
「いつも、お仕事…頑張り過ぎなんだよ。…ハジ」
彼がどれだけ優秀なのだとしても、どれだけ健康で体が丈夫なのだとしても、『ハジはロボットじゃないんだよ…』と、熱が下がったらコンコンと言って聞かせなくては。
朝早くから夜遅くまで、彼は本当に勤勉に働いている。
社長付という特殊な役職上…忙しい事は勿論…容易に代わりを果たせる人材がない事も、小夜は十分に理解しているつもりだったけれど、それでもこんな風に弱った姿を目の当たりにすると、『どれだけ彼を酷使するつもりなの!!』と、会社に文句の一つも言ってやりたくなる。
ベッドの枕元に跪き、もう一度覗き込む様にして男の額にぴったりと自分の額を重ねると、胸の奥からどうしようもない愛しさが込み上げてきた。
出来る事なら……、代わってあげたい。
……………心細い…。
このままどんどん悪くなっていったら…どうしたら良いの?
いつも毅然とした彼の、こんな弱った姿など今まで想像した事もなかった。

枕元の時計は、午後5時を少し過ぎていた。
本当だったら今頃は横浜のホテルで用意したワンピースに着替え終わっていた頃だろうか…。今更、未練がましくそんな事を考えてはいけないと解っているけれど、時計を見た途端…不意にそんな情景が脳裏に浮かんだ。
本当なら今日はホワイトデーと二十歳になったお祝いに、ハジがデートに誘ってくれていたのだ。小夜がまだ行った事のない横浜、憧れのホテルでの宿泊とお洒落なフレンチレストランでのディナー、しかも部屋はスウィートで…。
自分には分不相応だと思いながらも、小夜はハジからそう誘われて以来とても楽しみに準備していたのだ。
なかなか着る機会のないよそ行きのワンピースを引っ張り出し、それに似合う様にいつもより少しだけ背伸びした上下お揃いのランジェリーも用意した。いつものカジュアルなものとは違い、大人っぽい薔薇の模様のレースをあしらったブラとショーツはロマンティックな甘いデザインで、自分で試着してみてもどこか気恥ずかしくなる位だったけれど、折角スウィートルームに泊まるのに…と自分を勇気付けたのだ。
こんな事を考える自分がとんでもなくイヤラシイ様な…、それでもし何事も無く朝を迎えてしまったらそれはそれで残念な様な…。
初めてでもないのに…小夜はそんな落ち着かない数日を過ごしていたのだ。

しかし、デートを翌日に控え…休日出勤していたハジは予定よりも随分早く帰宅すると、既に立っているのも辛そうな様子で、キッチンで洗い物をしていた小夜が慌てて手の水気を拭き取って駆け寄ると、そっと触れたその額はいつになく燃える様に熱かったのだ。
大した事はありません…と言い張るハジを黙らせて強引に体温計で熱を測ると39℃近い高熱で…。きちんと測ったことがある訳ではないけれど…どうやら平常体温が低めである彼にとって、それがどれ程の事態かという事を想像すると、小夜自身全身からさぁっと血が引くような思いがした。


それから一晩。
小夜はそっと吐息を吐いた。
土日という事もあり…今朝になって救急で受診すると、幸いにも心配されたインフルエンザの反応はなく日頃たまった疲れが一気に出たのだろうという様な曖昧な診察で、どちらにしても救急では専門医の診察が受けられない為、仕方なく熱を下げる薬だけ処方して貰って帰宅した。
念の為、明日の月曜日にもう一度病院を訪れて専門医に診て貰わなければならない。
小夜は車の免許を持っていないので、その度にタクシーを呼ぶ事になるけれど、そんな手間など大した問題ではなかった。
今までに見た事もない程、ハジは体調を崩していた。
しかし、こんなに辛そうにしていても、ハジの病院での対応は常にきちんとしていて、それが『大人』という事なのかも知れなかったけれど、小夜の出る幕などほとんどないに等しいのだった。
尊敬の念を抱くと共に、小夜は少し複雑な気持ちになる。
「…ね……もっと、私を頼って…?…ハジ…」
でなければ…自分がここにいる価値が見出せない様な気持ちになってしまう。
いつも、ハジに世話ばかり焼かせて、守って貰ってばかりで…隣に居ても自分はハジの役になど何も立っていない。
愛しくても、もどかしくて、情けなくて、そんな様々な思いが交錯する中…小夜の指先がハジを驚かさない様にそっと額から首筋へと移ると、その微かな刺激にも眠っていると思われたハジの白い瞼が薄らと開き青い瞳が覗いた。
覗き込む小夜の姿をゆっくりと認識すると、乾いた唇が微かに動いて『申し訳ありません』と告げた。小さな声が掠れている。
デートの予定を全てキャンセルしなくてはならなくなった事に対して小夜に詫びているのだという事はすぐに解ったけれど、小夜は敢えてその謝罪に答える事は出来なかった。
…そんな事…。
そんなデートより何より、自分にとってはハジが一番大切なのだという事を、彼は未だに理解していない。それが少し腹立たしい様な寂しい様な複雑な…気持ちを抑え、小夜は優しく問い掛けた。
「喉…乾いてるんじゃない?……もし食べられるなら、少し食べて…?」
「……………………」
「………お薬も飲まなくちゃ…」
「…すみません。貴女が…今日の事を…とても楽しみにしていたのは…」
「…ハジ!……そんな事より…」
「………すみません」
「…ねぇ、ハジ。…私は…フレンチのディナーより、スウィートルームでの宿泊より…」
ハジの事が…

キンコーン…

と、小夜が謝罪ばかり繰り返そうとする男を遮ったその時…二人の会話を邪魔する様にインターホンが鳴った。
仕方なく、ベッドの傍らに跪いていた小夜が立ち上がるとハジはやはり辛そうな様子でゆっくりと頷いて瞼を閉じた。
何か思う所でもあるのか、長く深い息を吐く。
「すみません…。受け取って来て貰えますか?」
受け取って来て…?
それはどういう意味だろう?
どうして荷物が届いたと解るのだろう?
何か荷物が届く予定でもあったのだろうか?
しかし、本当なら今日は留守になっていた筈なのに…。
疑問を感じながら、小夜は寝室を後にした。


□□□


「…ハジ!!」
数分後、小夜は大きな声を上げて寝室のドアを開けた。
届いたのは大きなバラの花束だった。小夜の好きな淡いピンク色のバラを基調にした花束は小夜が両手で抱えなければならない様な大きさで、贈り主の名前は、今寝室のベッドで熱に浮かされている恋人のものだった。
瑞々しく甘い花の芳香が小夜を包み込む。
受け取りにサインをする間も…突然手元に届いた大きなバラの花束に小夜はただただ呆然としていた。
花屋の店頭で花束を目にする事位珍しくはないけれど、芸能人でもあるまいし…実際にこんな大きな花束を自分宛に贈られる機会など人生で早々何回もある事ではない。
事務的に去っていく業者を見送り、一人玄関で大きな花束を抱き抱える。
あんな風に熱で苦しい思いをしながら、小夜に隠れて彼は一体何をしていたと言うのか。
留守になる筈のこの日この時間に届いたという事は、それはつまり彼が熱で立っているのも辛いというのに、昨日の内に花束を発送して貰う手配していたという事だ。
「…ハジ」
こんな時、何て言えばいいのだろう。
熱があるのに何をしているの?と怒るべきなのだろうか…、それともまずはありがとうとお礼を言うべきなのか…。
部屋に戻ると…いつの間にかハジはベッドで上半身を起こしていた。
辛そうにヘッドボードに背中を預けている。
小夜が呼ぶと、ゆっくりと視線を巡らせ…戸惑う小夜にそっと微笑んだ。
「…ねぇ、こんな大きな花束…。……………どうしたの?」
『どうしたの?』と言う台詞が、今の場面ではどれ程間が抜けている事だろう…。
「……本当は、ホテルの部屋に届けて貰う予定だったのですが…。部屋をキャンセルした時点で…自宅に届けて貰えるように…連絡しておきました。…せめて花束位…」
小夜は息を付き、静かにベッドの脇に腰を下ろした。
こんな時にまで、小夜の事を考えてくれる男に感動を覚える…けれど同時に、こんな時だからこそもっと自分の事を優先して、大事にして欲しいと小夜は思う。
それに…。
自分がバレンタインに贈ったのは、ただのカレーなのに…。
どれだけ彼は自分の事を甘やかすつもりなのだろう……………。
「……ありがとう、……すごく嬉しいけど…。……でも、私は…」
花束とかお洒落なレストランとか…そんなものより………。
「小夜。…申し訳ありませんが、私の机の一番上の引き出しを開けて貰えますか?」
ハジは小夜の言葉には答えず、そう小夜に頼んだ。
小夜が訝しみながらも、壁際のパソコンデスクの引き出しを開けると、白くて光沢のある包装紙に包まれた小さな小箱がちょこんと鎮座している。
赤いリボンは明らかにプレゼント仕様で…。
振り返り、小夜が戸惑って指示を仰ぐとハジは『それを持って来て下さい』と微笑んだ。
小さな白い小箱をちょこんと両手にのせて小夜が戻ると、ハジはそれを改めて小夜に差し出した。
「…………どうぞ…。開けてみて下さい」
「……良いの?」
ハジは静かに微笑んでいる。
小夜はそっとベッドの端に腰を下ろすと、やはり戸惑った様子で…膝の上に置いた小箱の赤いリボンをゆっくりと解いた。丁寧に包装紙をはがしていくと現れたのはやけに高級感あふれる黒い箱で、小夜は緊張した面持ちでその蓋を開けた。
真っ先に目に入ったのは、まるで一足先に綻んだ様な美しい桜色。
透明のアクリル板のはまった黒い革張りのケース、その真ん中に美しい桜色の…。
「…これ…?」
「小夜…」
「……ねえ、これ…」
小夜と呼ぶその声に、いつにない真剣なものを感じ取って、小夜は恐る恐る恋人を見詰め返した。
僅かな沈黙。
ハジが大きく一つ、肩で息を吐いた。
そしてその言葉は、男の口から思い掛けなく突然に発せられた。
「…結婚して下さい。……小夜」

……………………な…に?

「…………………こ、……れ?」
「………綺麗な桜色でしょう?」
ハジは良く見える様に、小夜の掌の上のケースのふたを開けた。
大きなブリリアントカット、澄んだ桜色には一点のくすみもない。
「…………すごく…綺麗。……………だけ…ど……」
「一目見た時から…貴女の白い指に良く似合うだろうと…。エンゲージリングにピンクダイヤモンドはどうかと思いましたが、貴女はもう無色のダイヤは持っていますから…」

……ピンク…ダイヤモンド?

手の平の上の桜色の美しい石に、そしてエンゲージと言う言葉に、小夜は言葉を失っていた。確かに以前、『いつか結婚して下さい』と言われた事はある。
勿論小夜だって、いつかそうなりたい…と思っていたけれど。
「ルースのままで申し訳ありませんが…。どうせならリングのデザインは小夜自身で決めたいでしょう?一生に…一度の事ですから…」
「…………………これ、…ダイヤモンドなの?」
なんて間の抜けた台詞だろう…。いくら小夜が世間知らずとは言え、ダイヤモンドが無色の物ばかりではない事くらい知っている。しかし小夜が雑誌などで見かけるピンクダイヤモンドは、もっと小粒なものだ。
「…そうですよ。天然の色でこれだけ鮮やかに澄んでいて、その上……これだけ大きな石と言うのは中々希少価値が高いそうで…またいつか同じものを探そうと思っても、で見つかるかどうか…。ですから…貴女に無断で申し訳ないと思いましたが…決めてしまいました。そういう石に出会ったのも一つのタイミングでしょう?」

……タイミング?

…………そういう、ものなの?

目の前の美しい桜色の石に目を奪われながら、小夜ははっと我に返る。
「……いつか…って事…じゃ、……ないの?」
「そんな…漠然とした話ではなく……。具体的に二人の将来を考えていきたいと…」
「……………………………」
長い沈黙の末、小夜は何度か唇を震わせて答えた。
「…………そんな大事な事…どうして、こんなに急に…。どうして…今なの?…こんなに……熱だってあるのに……」
結婚するとかしないとか、そんな事よりもまず、どうして彼がこんな熱のある状態でありながらこんな大切な話を切り出すのか…小夜は混乱していた。
今はそんな事よりも、自分の事を労わって欲しいのに…。
ハジもまた、小夜が驚く事を予想していた様子で、小さく肩で息を吐いてゆったりと微笑んだ。熱に潤んだ青い瞳に真っ直ぐ見詰められると、小夜には彼が決して急に思いつきでこんな事を言い出したのではないのだという事が察せられた。
「……急に、では…ありませんよ。……もうずっと、私自身の中では考えていた事です。
…今日、プロポーズしようと…決めていましたから。こんな風に熱を出してしまって、予定を全てキャンセルして…。このままプロポーズすることまで延期したら…私はこの先、いつまで経っても…言い出すきっかけを失ってしまう様で…」
一気にそう話すと、ハジは熱に潤んだ瞳で尚も小夜をじっと見詰め…肩で大きく息をした。
「…………融通の利かない男ですみません…」
「…………………………」
「いい加減な気持ちで…こうして貴女と暮らしている訳ではありません」
「……それは…私だって…」
同じ気持ち…。
いい加減な気持ちでこんな風に、男の人と暮らすなんて考えられない。
ハジだから…。
ハジだから、こうして暮らせるのだ。
「それでも。…お互いに結婚を前提として、真面目な気持ちで暮らしているのだとしても…世間的にはただの同棲と言う評価でしょう。……お父さんは突然現れたどこの馬の骨とも解らない私を信用してくれていますが……」
「だって…!」
こんなに何もかもきちんとしているのに、ハジのどこを疑うというのか…。
「……………しかしもう一緒に暮らす様になって…二年になるでしょう?」
「…………………………………」
「………そろそろ、きちんとしても良い頃ではありませんか?貴女はまだ学生ですが…結婚する事で、束縛するようなつもりはありません……」

きちんとしても…良い頃…?

それは…。
どういう基準で決まるものなのだろう…?

「私は…結婚の二文字をちらつかせて……、貴女を弄んでいる訳ではなくて…ですね…」
「…そんな事、解ってるよ。……弄ぶ…なんて…」

………そんな風に、考えた事もない。

「それでも、もし私が貴女の父親の立場だったとしたら……」
「お父さんに何か言われたっていうの?」
「……違います」
きっぱりとした口調で、ハジは否定した。
そしてゆっくりとしたスピードで差し出された形の良い指に、小夜が誘われるように無意識に指を絡めると、思い掛けない強い力で…けれど労わる様に優しく小夜を抱き寄せる。その広い胸に包まれると、いつになく彼の体温が熱い。
こうして抱き締めたり耳元で囁いたりするのは彼の常套手段だけれど、今日に限っては彼の体調がひどく悪い事を示していた。
「……ねぇ、ハジ。この話は…また熱が下がってから…」
「………嫌です…。快い返事を頂けるまで、この腕は離しませんし…薬も飲みません」
「…そんな…」
彼がこんなに子供染みた我儘を言った事があっただろうか…。
薬を飲まないだなんて…。
小夜が黙り込むと、ハジは何度か大きく肩で息をした。小夜を包み込む胸が揺れる。
大きく上下する胸板に仕方なく頬を添わせて、小夜はそっと彼の呼吸に合わせて息を吐いた。
「……愛しています。どうか、結婚して下さい…小夜」
低く優しい声が、全身に…直に甘く響く。
子供染みた我儘を言いながら、しかしまるでべそをかいた子供を宥める様な仕種で小夜の髪を梳く。
こんな時なのに…。
こんな風に優しくしないで…。
今は、自分の体の事を大切にしてほしいのに……。
「…………私が…どれくらい心配…してるかなんて…」
思わず、小夜の声が震えた。
ずっと不安で堪えていたものが、様々な感情と共に溢れ出す。
ぽろりと頬に涙が零れた事を自覚すると、もう涙の線が緩んでしまったかの様に次々と涙は溢れて…しかし一旦泣いてしまえば、どこか胸のつかえが取れた様にすっと気持ちが解ける。
「………すみません、小夜」
「………ばか。ハジのばか…。……ばか、ばかばかばかばか、ばか。こんなに…息が荒くなる位…熱…辛いんでしょう?」
「まさか………。……………真剣に、…………プロポーズして……こんなに馬鹿を連呼されるとは……………予想外でした……」
「……だって」
細い肩がしゃくりあげるのに、ハジは労わる様にそっとその肩を抱き寄せる。
耳元に熱い息がかかる。
「………本当なら、二人の生活はもっと大切に始めるべきだったのかも知れませんが、貴女とはもうこうして先に生活を始めてしまって…。結婚と言う形にこだわらなくても、毎日が幸せで、貴女はまだ学生で…」
「ハジ…?」
「これでも随分、考えたのです。………どういうタイミングで結婚する事が、貴女にとって一番ベストなのかという事を…」
「………………………」
「……結局。………私の気持ちが…」
抑えられなくなってしまったのです…と、ハジは情けなさそうに囁いた。
腕の中からじっと男を見上げる。
乱れた黒髪、ほんの少しやつれて見える。
いつになく、多くを語り、幾分気恥ずかしそうに…しかし逸らす事無く…まるで縋る様に、小夜を見詰める潤んだ瞳。

ハジは…狡い。

「…小夜と、本当の家族になりたい。………私と結婚して下さい…小夜…」

狡い。
こっそり、こんな台詞を用意していたなんて……。

小夜は開きかけた唇を戦慄かせ、今にも蕩けてしまいそうな赤い目を見開いて…その広い胸に体を押し付けた。
熱い首筋にギュッと頬を摺り寄せる。
「……小夜?」
答えてはくれないのですか?と呼ぶ愛しい恋人の声。
いつか…近い将来。
彼が……自分の…『夫』に……なるの?


足が地についていない。
どこか高い空の上を、ふわふわと漂っている様な…不思議な甘い気持ちだった。

けれど、敢えてその気持ちを押し留めると、小夜は唇を尖らせた。
「駄目…。ちゃんと薬を飲んで……熱が下がらなきゃ…答えてなんかあげないんだから!!…ハジのばか…ばかばか…」

腕の中で赤い目をして『ばか』を連呼する少女に、ハジは小さく『はい…』と神妙に答えたのだった。

                          《了》

20120427
2011年4月のブログに載せたSSです。


はああああああ。
文字数的にはそう多くもないのに、書いてる自分には果てしなく遠い道のりでした。
ああでもないこうでもないと何回書き直したことか…。
(凄く恥ずかしいデス。…………私が)
ホワイトデーに贈りたかったのは、どうやらそのピンクダイヤモンド&プロポーズの言葉だったらしいですね…。参考までに色々と調べまして、自分が欲しくなりましたけど「…こんな可愛らしい石が似合う年齢ではないな…自分…」と言う感じでした。
きっと小夜たんなら似合う…勿論。
ホワイトデーのお返しと言うか、ものすごい出費でしたが…まあ仔うさぎのハジはお金たくさん持っている様子なので、一生に一度の事で小夜たんの為ならあっさり買ってくれました。過去に一度、プロポーズしているのと、既に一緒に暮らしている事とか、改めてプロポーズするのに、彼なりに凄く悩んだ様子で(いや、悩んだんです)自分はいつでもOKだけれど、小夜たんはまだ学生さんだし、これから就職活動もする筈で、そのタイミングと言うか、難しい…様な。
就職活動をするのに、今かなり厳しいのだと思いますけど…同棲中っていうのはハンデにならないかな〜とか、せめて婚約中…の方が体裁が良くない?とか。
その辺よく解らないんですけど。
ハジ的には、小夜たんの人生に責任を持ちたい…と言う事みたいです。
まだこのネタで書きたい事はあるので、短く書くかもしれないですね…。
多分これから、沖縄のお父さんに正式に「小夜さんをお嫁に下さい」みたいな事をして、彼の事だからきっちり結納とかやるのかな?とか、式場選びとかドレス選びとか…。
そういうアホな妄想がすんごく楽しいです。結婚準備中って一番楽しくないですか??
……すみません。私の個人的現実逃避の妄想です…。
でもまだ、このお話は続いているので…っていうか続くので、お付き合い頂けたら嬉しいです。すんなり結婚できるかな…。
…ここまで読んで下さってどうもありがとうございました!
ではまた〜。


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