訊くだけ野暮な…  


「ハジって…どうしてそんなに優しいの?」
大きな瞳を見開いて、唐突に小夜がそんな可愛らしい事を言う。
そんな風に感じているのは自分だけなのだと言う事に、彼女自身は気付いてさえいないのだ。
思わず、それが可笑しくて口元が緩むと…小夜はほんの少し気を悪くしたように唇を尖らせた。
それは小夜のいつもの癖で…
きっと彼女自身はそんな癖がある事にすら気付いていないのだけれど…
それを言うのなら、『どうして小夜はそんなに無邪気なのですか?』と、逆に問い質してみたくなる。

少し、意地が悪いだろうか…?
しかし、この状況で…それを問われては…

ハジは彼女の胸元のボタンに掛けた指先を一旦引いた。
何の警戒心もなく見上げる小夜の無邪気がほんの少し恨めしい。

週末の夜、互いに入浴も済ませ、アルコールも入って小夜の頬はほんのりと赤く…。
ソファーに寄り添って、後はいつでもベッドへ移動するのみ…。
何なら、このまま抱きあげて連れて行こうかと思っていたのに…。

気を取り直す様に、ハジは傾斜しかけた体勢を突いた腕で何とか持ち直し、きょとんと背凭れに身を預けたままの無防備な少女に微笑んだ。

「…それは、つまり…。もっと乱暴に扱って欲しい…と言う…小夜なりのアピールなのだと受け取っても良いのでしょうか?」
「…ら…乱暴?」
「…まあ、私も男ですから、そんな願望が少しもないと言えば嘘になります」
「……そんな?…願望?」
「どれほど深く愛し合っているのだとしても……毎回同じ手順では、お互いに飽きてしまうのも尤もな話ですから……」
「…お互いに…飽きる…て?」
オウム返しに問い返しながらも、次第にその意味に気付いたのか…小夜の頬はいつしか真っ赤に染まっている。
「や…やだっ…。ハジったら…」
「色々試してみたい…と言う事でしょう?…流石に本格的な…の経験はありませんが、もしあなたがそれを望むと言うのなら、努力しますよ…。男として小夜を満足させてさし上げられる様に…」
「ちょっ…ちょっと待って!!…違うでしょ?…私の言いたい事はそんな事じゃなくて。あの……
あの、本当に…そう言う事じゃ…なくて…私…」
真面目な表情でさらっとそんな事を言ってのけるハジを、小夜は慌てて制止する。
全てを本気にしてか…その頬は先程よりもさらに赤い。
ふっくらとした瑞々しい頬の滑らかな感触がハジには容易に想像出来た。
唇を合わせるでもなく、抱き寄せて頬擦りする時の心地良さ…が蘇ってくる。
ハジはつい零れてしまいそうな笑みを堪え、思わず触れてしまいそうになる指先を必死の思いで押し留めると、今にも湯気を出して爆発しそうな小夜の顔をゆっくりと覗き込んだ。
「あのね…ハジ。私そう言う事じゃなくて…」
「……ええ」
すらりと伸びたしなやかな腕が小夜の肩を抱き寄せていた。
「……ハジ?」
ハジの見守る様な穏やかな視線に…漸く彼の解かりにくい冗談に気付いた小夜が再びつんと唇を尖らせる。
「嘘。ハジが優しいのなんて嘘…。前言撤回…真面目に訊いてるのにそんな風にからかわないで…」
抱き寄せようとする男の腕から逃れようと強くその厚い胸板に腕を突く。何度かもがいて抵抗を示して…そして漸く観念したのか、ハジの腕の中にすっぽりと収まって大人しくなる。
「からかってなど…。私は本当に……小夜の望みの通りに…努力したいと思っていますから…。やはりそれは、男として生まれたからには…ですね?…仕事が出来るだけではなく…」
常に愛する女性を満足させられる様でありたいと…
「…っ!」
真面目に語り出す恋人に思わず小夜が噴き出した。
「やだ…可笑しい。笑わせないで…。ハジ…」
どうして人が真剣に話していると言うのに…、この少女は…。
くるくると表情を替え、男を骨抜きにする無邪気な微笑みを浮かべる小夜に…
「では、私からも一つ質問を…。どうして貴女はそんなに可愛らしいのですか?」
ハジもまた質問を返して…
「……………そ、そんな事、ないから…。全然、可愛くない…よ。私…」
髪を揺らし、慌てて否定する小夜を強く抱きしめて、その赤く滑らかな頬に一つキスを施して…。
ハジはゆっくりと小夜をソファーの上に押し倒した。

何はともあれ、可愛らしい恋人に飽きられてしまわない様に…。

つまりそれは、聞くだけ野暮な…。
夜のひと時。


2009年10月28日のPBBSから移動しました。…こんなの書いた事すら忘れておりました…。すみません!!

仔うさぎ短編。「訊くだけ野暮な…」
1736字。
う〜〜〜ん、バカップルですなあ〜。
日頃こんな事を考えて生きている私…。
しょうもない…。