Sleeping Beauty  /  三木邦彦
 
薄らと照明を落とした室内。
傍らの温もり。
すぅ…と安らかな寝息を立てる恋人の肩に毛布を掛け直してやりながら、ハジはまさか自分の人生にこれ程までに安らげる至福のひと時が用意されていた事に驚きを隠せない。
まるで子供の様に、枕を抱えてうつ伏せに眠る小夜の表情は見えなかった。
それでも先程までの…蕩けそうに甘く激しい時間の余韻が、彼女の幸せそうな寝顔を連想させた。
ハジの腕の中で、瑞々しい肢体を恥かしげに震わせ、懸命にしがみ付いてくる健気さ。
強く抱きしめたら折れてしまいそうに括れたウェストやしなやかに細い腕、その癖バストやヒップは豊かに丸みを帯びてハジを虜にする。
無意識の媚態、感極まった時に見せる艶やかな女の顔。
何度も繰り返し、うわ言の様にハジの名前を呼んで…。
思い出すだけで思わずもう一度抱きしめたくなるその欲望を、ハジは大きく息を整えて押しとどめた。
小夜は、このまま朝まで眠ってしまうだろうか…。
夜目にも白い肩に柔らかな毛布をしっかりと掛けて、ハジは上体を起こした。
一度は小夜と共にベッドに入ったものの、本当はまだ仕事が残っているのだ。
マンションの部屋は気密性も高く暖房も行き届いているから、寒いと言う事はないけれど…。
彼女を起こさないように、ベッドから抜け出そうとして…しかしそのあまりの居心地の良さに後ろ髪を引かれる。このまま朝まで抱き締めていたい…。
しかし、働く事もまた小夜を愛するが故に疎かには出来ない。
いつの日か…彼女が大学を卒業して…しかるべきタイミングが訪れたら…胸を張ってプロポーズ出来るように…。
それにはやはり今まで以上に仕事に励み…それだけが全てでない事は解かっているけれど…経済力を充実させておかなければ…。
「愛していますよ…小夜…」
ハジは吐息の様な声で囁いた。
いつの日か…
本当に、自らの全てを捧げて永遠の愛を誓える日が来たら良い。
小夜は…果して自分の為に真っ白なドレスを着てくれるだろうか…。
いつかその日が来る以前に小夜に愛想を尽かされる事がない様に…、やはり自分は今出来る事をしなくては…。
ハジがこっそりと毛布をはねてベッドを出ようとすると、ころんと小夜が寝返りを打った。
起こしてしまったのかと覗き込むも、小夜は相変わらず健やかな寝息を立てていた。
ほっと胸を撫で下ろし…
 
ハ…ジ…
 
ハジは目を見開いて固まった。
可愛らしいふっくらとした唇が、小さくハジの名前を象った様に見えたのだ。
しかし、それはやはり気のせいなどではなく…。
 
「……ハジ…。……大…好き…」
 
小さな小さな…微かな寝言。
しかし彼が聞き洩らす筈もない。
目覚めている時には何度となく繰り返されたそのセリフも、何の心の準備もなく寝言として聞かされてはその破壊力も凄まじく…。
ハジはいつになく…だらしなく緩んでしまいそうな口元を慌てて掌で覆った。


ハジはまさか自分の人生に…こんなに甘く満たされた至福のひと時が訪れるとは、小夜と出会うまで想像した事もなかったのだ。
 
 
つい今さっきまで、後ろ髪をひかれつつも仕事に戻ろうと思っていたのに…。
ハジは、はぁ…と甘い溜息をついて、再びベッドに身を横たえた。
途端に…まるで行かないで…とでも言う様に、小夜が胸元に縋りついてくる。
満足げな恋人の寝顔。
甘いその香り。
こんな夜くらい、このまま眠っても罰は当たるまい…。
小夜の柔らかな頬に口付けを一つ落として…、ハジはまどろむ様にそっと瞼を閉じた。
 
 
                                 ≪了≫


20091119
いつも萌えを頂いて、大変お世話になっております「日々、こう思っている」のくーままさんに
8000hitのお祝いとして(かなり勝手に)描かせて頂いたイラストと即興SSです。

8000hitと言いつつ、もうすごく遅くなって今更感満載でしたが、快く受け取って頂けて胸を撫で下ろしております。今回は珍しく自分のイラストにSSを付けてみたのですが、結構恥ずかしい。
〜というか、もう少し時間をかけるべきでした…本当に。

仔うさぎ設定になっておりまして、薬指の指輪は相変わらず七夕に買って貰ったやつでして、二人の何でもない普通の日常の小さな一コマです。

もうすぐクリスマスなので、小夜たんハジにもっと色々強請って買って貰うと良いよ。

すごく下らない私の脳内萌話なのですが、ハジは結構沢山お給料を貰っています。
その分忙しいけれど、小夜たんと暮らすようになって…今までは仕事中心だった生活が少し変わり、仕事は生活の手段となりました。
彼はそんなつもりはないけれど、実際小夜たんにはすごく甘いので、結構何でも買ってくれちゃったりしますし、いっそ小夜たんは別にバイトなんかしなくても良いのに…と思っている筈です。

本筋として、まだこれからソロモンとかディーヴァとか絡んでくるお話を書いてゆくつもりですが、こんな風にささやかな生活の一コマを、これからもちょこちょこ書けたら良いなあ〜と思っています。

付き合い始めたばかりの、まだ初々しい二人のやりとりというか、何もなくてもただお互いがいてくれさえすれば幸せという穏やかなお話。

具体的なネタはここでバラせないけれど…尽きないよ〜。

年齢のせいか…甘くて穏やかな話が書きたいんです(苦笑)


ではでは、くーままさん、仔うさぎに限らず…本当にいつもいつも萌え萌えをありがとうございます!
そして、こうしてお付き合い下さる皆様にも多大なる感謝をこめて!!

ここまで読んで下さいまして、どうもありがとうございました〜!!!