暗闇にじっと目を凝らす。
漆黒の闇に溶けるように、貴方の姿を見つけられるような気がして・・・
 
空の青と海の青とが一つに交わる彼方、

乳白色に輝く雲が薄く幾重にも重なって刻一刻とその色合いを変化させてゆく。
美しいその一瞬一瞬の色を瞼の裏に焼き付けながら、私はやがて夜の闇に包まれる空を見上げていた。
こうしていると・・・自分の心臓の音すら聞こえそうな程静まり返った浜辺には、

ただ波の音だけが絶え間なく響いている。
波打ち際、サンダル履きの素足が白い砂に取られてよろけそうになりながら、

隣に貴方が居てくれない事を実感する。
そうと気付かない程さり気無く、気遣ってくれる優しい腕は、

いつの間にか差し伸べられる事が当たり前になっていた。
息を吸って、吐いて・・・、こうして、今も生きている私。

心は半分千切れたままなのに、何事も無かったかのように平和な日常に戻り、笑う私。
・・・ハジ・・・
声にするのが恐い。
声に出して貴方を呼んで、もし返事が無かったら、きっと私は気が狂ってしまう。
ハジ・・・
どこにいるの?
貴方が死んでいない事は、知っているのに・・・
私達を無事逃がす為、アンシェルに止めを刺したまま一人瓦礫の向こうに消えた貴方・・・

張り裂けそうな私の心は、

しかし最後までリクを失った時のような喪失感を感じる事はついに無かった。
それなのに、貴方が無事に生きていると言う確証も得られないまま、私は沖縄へ戻った。

笑顔が欲しかったと言った貴方の言葉通り、私笑ってるよ・・・。
生きているならどうして早く私の傍へやって来てくれないの・・・
戦いの最中で、私の為に何度も傷付き沢山の血を流してきたハジ、

それでもあなたは必ず私の傍に居てくれた。
いつも一緒に居たのに、あなたの気持ちにも自分の気持ちにも蓋をして、

翼手を倒すと言う重い枷を繋いで、敢えて目を背けてきた。
こんな風に離れ離れになるなんて、想像すら出来てはいなかった。
これは報いなの?
あなたを失うなんて・・・
ディーヴァを倒し、自分も死んで、この世界から翼手という種を一掃する。
それが私の願いだったけれど、ハジ・・・
あなたに一番辛い事を約束させておきながら、私は決してあなたの「死」を望んでなどいなかった。

心のどこかで貴方だけは生き延びてくれる事を望んでいた。
もし貴方が本当に私の命令を忠実に守るというなら、貴方の腕の中で事切れるその前に、

決して自分から命を絶たないように約束させる事すら考えた。
それがどんなに矛盾した想いでも・・・
あなた一人をこの永遠に続く時間の中に置き去りにする、それがどんな残酷な事か解っていながら・・・。
これはその報いなの?
「ハジ・・・」
音にならない程小さく小さく、私はその名を呟いた。
小さな呟きは、誰の耳に届く事も無く波の音に消された。
「ハジ・・・。まだ、ちゃんと伝えてないよ・・・」
貴方は愛してるって、言ってくれたのに・・・
「私・・・ちゃんと伝えてないよ。・・・ハジ・・・」
私も愛してる。
ハジ・・・
きっと、間に合わないね・・・
私、もう起きていられない・・・
貴方を待って、ずっと我慢していたけど、もう限界なの・・・
もし、私が眠ったら・・・次に目が覚める時、貴方は傍にいてくれる?
ハジ・・・
もう私達・・・戦わなくて良いんだよ・・・
それなのに、貴方だけがいない。
もう、泣かないから・・・これが最後だから・・・
堪えていた涙が、堰を切ったように零れ落ちた。
 
日が沈み、空と海との境目が消えた彼方に・・・
 涙に潤んだ瞳で、暗闇にじっと目を凝らす。
漆黒の闇に溶けるように、貴方の笑った姿を見つけられるような気がして・・・

20061006
無事に最終回を迎え、思う事は一杯で何から書いていいのか・・・。
沖縄に戻ったサヤはきっとハジを待っていたんだろうし、笑っているけどやっぱり
どこか寂しげで、そんなこんなで書きました。
最終回の勢いで書き始めたけれど、時間が経ってしまったので、これを載せるのにちょっと
勇気が要りました。
でも、折角書いたし(笑)沖縄に行ってる間にまた色々考える事もあり、
この先どういう方向で小説を書いていこうか・・・模索中でもあります。
やっぱ30年後?の話を書くのかしら???