タイトルなんてありません。単なるエロ連載です。
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20071109


息を継ぐ間も惜しむ程、空気が張り詰めていた。
静まったサニタリーに淫らな音が響く。
二人の肌が触れては離れる度…その繫いだ下肢からは、ハジの律動に合わせて粘着質の水音が響いた。
小夜の中で堰き止められた何かが暴れている。
得も言われぬ快感。言葉にしてしまえば、そのたった漢字二文字で表されてしまうその感覚。
早く解放されたい。けれど、簡単に手放してしまうにはあまりにも甘く魅力的なそれ。
このまま、体を繫いだまま本当に一つの命になってしまえたら良いと願うほど、二人は互いの事を強く想い合っているのに、時は非情で…翼手としての長い寿命に相反するように彼らが共に過ごせる時間は限られている。
そしてこの世には、永遠などと言うものも存在しないのだと、二人はよく知っている。
満ち潮のように…快楽の波が押し寄せる、それは次第に高まって頂に出口を求めるように、二人を押し流そうとしていた。
せわしない呼吸が重なり、小夜の体がびくびくと小刻みに震え出す…それは彼女の体が限界に近い事を示しているのだと、男は肌で知っている。
ハジは天板の上に縋りつく小夜の上半身に片手を伸ばした。
「~~~~~~っ。っゃん、ハジ…ッ」
忍ばせた指先が、小夜の硬く屹立した乳首を摘んだ途端、その小さな背中は電流が流れたかのように大きく撓った。
「小夜…。小夜っ…一緒に…」
「…ハ…ジッ…」
ハジが一際強く腰を打ち付けると、小夜の体もそれに合わせるかのように上り詰めた。
小夜の体の奥深い場所にハジはその熱い全てを迸らせ、同時に背後から覆い被さるように、強く小夜の体を抱き締めた。
二人の全身を襲う心地好い緊張、声にならない悲鳴が咽喉の奥に張り付いて、次第に緩々と弛緩してゆく。
どれ位そうしていたのか…甘い余韻が支配する長いような短いような不思議な一瞬、やがて崩れ落ちようとする小夜の体を、ハジはその腕で支えた。
朦朧としながらも首を反らせて求める愛らしい唇に、そっと触れるだけの口付けを与えると、熱く湿った吐息が交じり合う。
まだ繋がったままの下肢から、ハジは用心深く己を引き抜いた。
その刺激にさえ小夜の唇から小さな悲鳴が零れる。
滑らかな太股の肌にゆっくりと流れ出す白濁した体液を、ハジは手近なタオルで丁寧に拭き取ると最早腰に纏わりつくばかりのドレスを、小夜の体から脱がした。
ドレスをふわりと足元に落とし、ぐったりとした華奢な体を向き直らせると、ハジはその両腕に軽々と彼女の体を抱き上げた。
「ハジ…」
鼻に掛かる溜息のような甘い声音。
「…ドレスが、皺になってしまいましたね…」
幾分申し訳無さそうにハジが答えると、小夜は小さく首を振った。
ハジは縋る体を抱きかかえたまま、ガラス張りの浴室へと向かった。
小夜を抱いたまま、給湯のスイッチをオンにすると、
ボコンッと水の溢れ出す音が響き、次第に辺りは暖かな湯気に包まれる。
丸い浴槽は床よりも二段程高い場所に設えてあり、腰掛けるにはちょうど良い高さのそこへハジは小夜を座らせると自分も目線を合わせ向き合うように跪く。
情事の余韻を纏ったままの小夜の肌は淡く色付いて艶かしく、既にドレスは脱ぎ捨てたというのに、身に着けているのは、白いロンググローブと薔薇のレースが繊細なガーターベルト、絹のストッキングとエナメルのパンプス。そんな小夜の姿はハジの目には毒でしかない。
既に一度は満たされた筈なのに…。
けれど、目を逸らす事も出来ないまま…華奢な首筋を引き立たせる大粒の真珠のネックレスを、ハジはそっと手を差し伸べて外した。
ついで、同じく真珠が葡萄の房のように連なったイヤリングを一つずつ外す。
「恥ずかしいわ…ハジ。私、自分で、出来るから…」
どこかぼんやりとしていた意識が戻ったのか、まじまじと肌の上を張ってゆく男の不躾な視線に、小夜が身を捩った。
細い腕を回して胸を隠そうとするけれど、そんな恥じらいすら扇情的で…。
ハジは今更だと思いながら、そんな小夜の初心さもまた彼を魅了して止まないのだ。
「もう……今更ではないのですか?」
「…そんな事、…ない」
頬を真っ赤に染めて、ハジの手を押し止めようとする。震える指先で、男の大きな手に触れる…その指先にハジは反対の掌を重ねた。
「………聞いて、小夜」
「ハジ…」
「……私は独占欲の強い男なのですよ」
あの広いパーティー会場で、美しく着飾った小夜の姿にどれ程の男の視線が集まっていたかなど、小夜自身は微塵も気付いてなどいないのだ。
小夜は訳が解らないと言った様子で、きょとんとハジを見詰め返してくる。
「…その上欲張りなのです」
「…ハジ?」
「小夜…じっとして」
イヤリングの外れた耳元に、そっと口付ける。
「貴女を抱きたい気持ちに…果てなどないのかも知れない」
さりげなく抱き締めた腕の中で、小夜が身じろぐ。
「ま…待って、ハジ…。だって…今…」
その先は言葉にならなかった。
たった今ハジを受け入れたばかりの小夜の体は、今だ…その甘く気だるい余韻に浸ったままであるというのに…。
「…愛しています。他の何にも変え難く…貴女だけを…小夜…」
「……こんなの………狡い、ハジ…」
ハジはこの上もなく美しい笑みを浮かべた。
濡れ羽色の髪、陶器の様な白い肌、夜明けの空のように澄んだ濃い空色の瞳。
均整の取れた長い手足。
こんなに美しい姿で、愛してるなんて囁いて…、彼は本当に狡い人だ。
小夜の気持ちなど…少しも解っていない。
「…そんなに警戒しないで。…何もいきなり入れようだなんて思っていません…」
一瞬硬直しかけた少女の肌を宥めるように撫でて、ハジは尚も笑う。
「ハジ…」
アップに纏めた小夜の髪からピンを一本ずつ抜いて…丁寧に解いて指で梳く。
「タバコの煙とヘアスプレーで気持ちが悪いでしょう?…私が、綺麗に洗って差し上げますから…」
優しく…間近に覗き込む青い瞳に、不安げに揺れる自分の姿を認めて…小夜はそっと瞼を伏せた。
「……独占欲が強いのは…私の方だよ。ハジ…」
「小夜…?」

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