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到底含み切れないハジのそれに舌を這わせながら、小夜は羞恥を紛らわす様にぎゅっと目を瞑る。
上手く出来るだろうか。自分にハジを気持ち良くさせてあげられるだろうか。こんな風に自分からハジを求めたら、はしたなく思われないだろうか
嫌われてしまわないだろうか
様々な思いが小夜の脳裏を過った。けれど。ハジに全てを委ねてしまえば、自分はすぐに我を無くすだろう。
それでは意味がない。
遠い記憶の中でさえ、ハジはいつも優しく小夜を翻弄するばかりで、小夜にその行為を強いた事はない。
それでも今、小夜はどうしても自らの意思で示したかった。
例え、時代が変わっても
別の人間として、この世に生まれたのだとしても
ハジが自分の事を想い、愛してくれるように自分もまた深く彼を愛しているのだと
深く愛し、また愛されているのなら、体を繋ぐ行為は一方的なものではないのだと
自分も彼を愛したい。
隠すところなく、その全てを
こんなにもあなたが愛しいのだと、解かって欲しい。
それにどうしても、小夜には確かめたい事があった。
ハジの掌が額に触れ、そんな小夜の表情を確かめる様に前髪を掻き分けた。じっと見られているそう思うと、余計に耳までが熱くなった。明るい和室でこうして肌を合わせる事に抵抗がない訳ではないけれど、暗い闇に紛れていては、小夜の視力ではそれをしかと確かめる事は出来ない。
息苦しさが勝って、小夜は一旦唇に含んだそれをそっと離す。
上目遣いに伺うと、ハジは美しい眉をやや苦しげに歪めて困った様に微笑んでいる。
「お願い。私にも……愛させて
小夜。貴女と言う人は
制止されない事に、どこか胸を撫で下ろして小夜は再び彼の股間に顔を埋めた。
生々しい存在感、初めて間近で目にするその形状。
ぐんと張り詰めたその熱い塊を凝視する事は出来なかった。
唇で触れると同時に硬く目を瞑る。
上手く捉えられなくて恐る恐る指で確かめる様にして小夜は舌先で先端の括れに触れた。
形状を辿る様にたどたどしく舌を這わせる。
しかしどうして良いのか解からない。どうしたらハジが気持ち良く感じてくれるのか解からないままただ一つ一つを確かめる様に、繰り返し舌を這わせた。
どくんと大きく脈打って次第に勢いを増すそれを、ゆっくりと包み込むように飲み込んでゆく。しかしハジのそれは小夜の口中に収まりきらず、喉を圧迫する質量に思わず噎せ返る。
………っ」
「小夜。無理をしないで
熱を孕んだ声が、頭上から小夜をやんわりと制止する。
大きな掌が頬を滑り、僅かな力が顔を上げる様に促した。
先端をふっくらとした唇に含んだまま上目遣いにハジを見る。
……さあ。唇を離して
息苦しさも手伝い小夜は促されるままに従い、唇をうっすらと開いた。
ぬるりとした先端が唇を離れると、小夜は大きく首を振る。
私が、下手だから?」
そうではありませんよ。……心地良過ぎるので、これでは、小夜と一つになる前に果ててしまいそうなのです
本当にそうなのだろうか
ハジの表情はもっとずっと余裕ありげに感じられたけれど、小夜はただ小さく嫌々と首を振り続けた。
これでは出会った子供の頃に戻った様だ。
けれど、どうしても
乱れた髪を整える様にハジの指が梳いてくれる。
応える様に跪いた姿勢からゆっくりと腕を伸ばし、ハジの首筋に巻きつける。
駄目なの、私。……ハジに……されると、何も解からなくなってしまうから
「それで良いではありませんか?」
「駄目よ
明るい所でなければ自分には確かめられない。
ハジの腕の中ではとても自分を保っていられない。
今を逃してはいけない。
無性に嫌な予感がするのだ。
突き動かされる様に、小夜はハジの唇を奪った。
薄く開いた唇を割り、吸いつく様にきつく舌を絡める。
歯列をなぞる様にして繰り返し、口付ける。
絡み付けた腕を一つだけ解き、闇雲にハジの股間をまさぐる。
っ。……小夜!」
「お願い、ハジが欲しいの。でもまだ待って。もう少し私を感じて好きにさせて?」
細い指でそれをそっと握る。
小夜。本当に
果ててしまいますと、甘く苦しげな呼吸の下でハジが訴える。
……どうしたら良いの?教えて
とうとう堪え切れない様に、ハジの指が小夜の指の上に重なる。
小夜の唾液で十分に濡れたそれを、小夜の掌ごと握るとゆっくりと上下に動かし始める。
思った以上に強い力で、リズム正しくそれを扱いてゆく。
ハジの吐息が次第に湿り出した。
間近でそれを感じながら、小夜もまた自身の体が甘く熟れていくのを感じていた。ぬるぬるとした感触が太腿まで伝う。
早く欲しいそう願う体を、小夜は押し殺した。
小夜もうっ」
握り締めた指を緩め、小夜の腰を支えると引き寄せると、胡坐に座った膝の上に導く。
「あん。まだ駄目。ハジっ手を見せて?」
「さ?」
「お願い
小夜の手がハジの右腕を捉える。
「見せて
強引に引き寄せる。
朝の明るい光の中で、ハジの右腕は白く光っていた。
ハジ」
陽の光を反射する、ハジの腕、その表面は所々透明に輝く鱗に覆われていた。
薄らと覆われた部分は、白い皮膚の感触とは違い硬質でひんやりと冷たい。
先程までは何も異変など感じなかったというのに
では背中は?
小夜はハジの肩から完全にシャツを剥ぎ取った。
指で触れ、覗き込む。
危惧したとおり、やはり彼の背中はびっしりと美しい鱗に覆われている。

やっぱり

小夜。気が済みましたか?」
………これ、どうしたの?どうして、こんな
以前のハジならば、こんな事はなかった。
仮に本当の姿が白く輝く美しい竜なのだとしてもこうしての姿をしている時に、彼の体に鱗が現れる様な事などなかった。
説明のつかない嫌な予感が小夜を包み込む。しかしハジは小夜の心配を察した様に、言葉を紡いだ。
「お忘れですか?……私の本当の姿を
そう言って、とうとう強引に小夜の腰を掴むと大きく両足を開かせ、そそり立つ己の上に抱き寄せる。
とてもその腕を振り解く事は出来ない。
強い力で腰を固定されると、ゆっくりと落とされる。
柔らかく濡れた襞をかき分ける様にして先端が宛がわれる。
「これで、気が済みましたか?小夜
「はぁ……ん、ああハジ駄っ
「もう、良いでしょう?……強請っておいて、焦らさないで小夜」
ハジが緩々とそこを探る。
ゆっくりと小夜の腰を沈めてゆくと、押しあてられたハジの先端は無理なく小夜に飲み込まれていった。
「やっん。あぁっ」
小夜の背筋をぞくぞくと快感が突き抜けた。
満たされる。
奥深くまでハジで満たされると、小夜の体は喜びにうち震えた。
ハジは小夜の腰を再び持ち上げる様にして、一度深く収めた自身を引いた。
「小夜。自分で動けますか?」
耳元で囁かれるハジの言葉に逆らう事が出来ない。
「んぅ
小夜はきつくハジの肩にしがみ付くと懸命に腰を浮かせた。
そうして再び、ゆっくりと腰を落とす。
ハジの首筋に顔を埋め、細い腰を懸命に前後に揺する。
ハジっハジ。あぁんっあぁ
ハジの両腕が細い腰を支え、単調になりがちな苦しい律動を崩す様に、時折強く下から突き上げられる。
大きな衝撃に小夜が身をくねらせた。
しがみ付いた小さな体を、ハジはやがて強く腕の中に抱き締めた。彼に貫かれたまま抱き上げられる様にしてゆっくりと押し倒されると、背中に畳の感触が硬く感じられる。
大きな掌が、小夜の乱れたブラウスの隙間から柔らかな乳房を揉みしだいた。
しっかりと自己主張する淡い色の乳首を指先で摘み、もう片方を唇に含む。
「ああんっ。ハジ
その間にも、ハジは小夜の体を大きく突き上げた。
「待てません
そう言って、小夜の愛らしい唇を塞ぐ。
唇を割って舌を絡め取り、歯列をなぞる。
息を継ぐように僅かに唇が離れると、吐息がかかるほど間近でハジが小夜を呼んだ。
「小夜。何も考えないで下さい。今は私に全てを委ねて
そう言うと小夜の唇に唇を重ね、口移しに何やら丸いものを含ませる。
つるりとした感触、味のないそれ。
小夜はこれが以前にも、ハジによって与えられた事を思い出した。
吐き出す事を許されず、それを舌の上にのせているとそれは次第に溶ける様にして小夜の口中に消えた。
んぅ。ま
待って
これは何?
「小夜、何も疑問を抱かないで。貴女に私の全てを捧げますだから」
「捧げるって何?」
私の全ては、貴女のものだと言う事ですよ
はぐらかす様に、ハジが大きく小夜を突き上げた。
「っハジ。……
引き抜かれたそれが再び小夜の奥深くを満たし突き上げる度、小夜の体の奥深いところに熱が生まれる。
説明のつかないその部分をハジのそれが擦り上げる様に繰り返し刺激して、生まれた熱が小夜の全身に広がり始める。
湧き上がってくる何か、ぞくぞくと背筋を走り抜ける痛みとはよく似たけれど決定的に違う何か。
全てを飲み込むように、ハジは規則正しく小夜をその高みに押し上げてゆく。
けれど、すぐにでも上り詰めようとする素直な体をすぐに手放してしまう事を惜しむかの様に、ハジは小夜の様子に合わせ、すぐその先に見える頂きをするりとかわしてしまう。
翻弄される。
小夜の心に横たわる不安ごと、全てを押し流す様に小夜を責める。
「小夜小夜
次第に小夜の意識に霞が掛かり始め、何も考えられなくなってゆく。
濡れた下肢が擦れ合い淫らな音を立てる度に、小夜の心から理性が一枚ずつ剥がされてゆく。
「ややぁん。あぁあん」
冷静な時ならば、耳を塞ぎたくなるような甘い嬌声も、もう抑える事が出来ない。
喉の奥から、溢れ出すそれを小夜はどこか別人のそれの様に聞いていた。
ハジの腕の中で、我を無くす。
自分を保つ事が出来ず、全てを明け渡し、身も心も一つになる。
小夜の心に芽生えた正体の知れない不安、そして右腕と背中に現れた鱗の疑問。
それらが徐々に輪郭を無くしてゆく。
「あぁっ!!駄目っもう。お願。ハジっ
乱れた黒髪その首筋に縋り、びくびくと背筋を逸らして小夜が上り詰める。
耳元で蕩けそうな程甘い息を吐いて、ハジもまた小夜を追う様に達した。
一際大きく突き上げられたその体の奥に、ハジが己を迸らせる。
余韻に浸る様にぴったりと重なり合う、小夜はハジの背中を強く抱き締めた。
ひんやりと心地良い冷たい背中。爪先に掛かる鱗の感触。
負担にならないよう、気を遣いながらもゆっくりと降ってくる男の重みを受け止めて、小夜は眼尻から一筋の涙を流していた。
ハジ
不意に気が遠くなる。力を失い背中から滑り落ちた小さな手をハジの手が捉え、そっと唇に運んだ。
桜貝の様な爪に愛おしそうに口付けを落として、ハジは小さく囁いた。
「もう、私は充分です。……小夜。例えこの身が朽ち果てたとしても
切れ長の瞳をすっと細め、ハジは小夜に口付けた。

ハジ?
何を言っているの?

その問い掛けが小夜の唇から発せられる事はなかった。


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