野薔薇の秘密2

どくんどくん…と大きく心臓が脈打っている。激しい動機に気分が悪くなりそうな程、小夜は緊張していた。
本当なら冷たく感じても不思議ではない夜風が逆に心地よいと感じられる程、体が火照っている。
小さな檜の浴用椅子に身を小さくして、小夜はじっと座っていた。
背中を向けているせいで、ハジの表情は解からない。
けれど、滑らかな泡と共に触れる男の掌が、彼の秘めた思いをそのまま物語っている様に生々しく感じられる。
大きな掌が、洗うと言うよりもずっと執拗に小夜の背中を這ってゆく。
背中を流してくれると言うハジの言葉に逆らえないまま、身を隠す衣服も気を紛らわす術もなく、じっと男の掌に翻弄される。
いつの間にか腰掛けを引き寄せる様にして、ハジは触れる程近くに小夜に寄り添っていた。
すぐ背後で身じろぐ男の気配。
不意にハジが言った。
「寒くはありませんか?」
労わりの優しい響きに、小夜は漸く唇を開いた。
「……大、丈夫」
本当は寒いも何もハジの掌の感触以外は何も解らなかった。
「…小夜」
微かな吐息で、ハジが小夜を呼んだ。
「もっと…傍に…」
「きゃっ…」
囁きと伴に…今まで小夜の背中だけを彷徨っていたハジの掌がするりと滑る様に脇の下から前に回されたのだ。そうして背後からやんわりと抱き締められる。
背中にぴったりと、男の胸板が感じられた。先程まで小夜の背中を撫でていた大きな掌が、泡と共に包み込むようにして小夜のバストを掴むと…小夜はあまりの事態から逃れようと、思わず細い指を男の腕に掛けた。
「あ、…待って」
「小夜……待ってはもう…」
首をひねる様にして振り返ると、『待ってはもう聞きません』…とばかりに、ハジは指先に力を込める。
触れているだけだったそれが、明らかに別の意図を持って小夜のバストを優しく揉み始めた。
「…ハ…ハジ…」
「怖がらないで…。……小夜」
「…怖がってる訳じゃ…」
「……小夜」
「あっ…んん…!ハジッ…駄目…待って…」
一度は心を決めた筈なのに、いざそうして男に触れられれば咄嗟に唇から衝いて出るのはどうしても躊躇いの言葉ばかりだ。胸に置かれた男の手に掌を重ね、何とか抵抗するも…まるでそれは強請っているようにしか見えない。覗き込むハジの表情は優しくて…一旦は手の動きを止めたものの、しかし容赦はなかった。
まるで、
………私の気持ちは、もう充分に…御存知でしょう?
とでも言う様に、小夜のじっと二の句を待っている。
「やっぱり…私…恥かしい…の。……こんな…ところで…」
「…こんな場所でも、感じてしまうから?」
滑らかな感触を楽しむように、ハジの掌が肌の上を滑る。
「あっ…ん…。や…ハジ…そうじゃなくて…」
「私は…もう、自分を抑えられないと言ったでしょう?」
「…だって」
がくがくと震える体を抑える事が出来ない。ハジに触れられている皮膚の下が熱を帯びたようで、小夜は自分自身にそれを誤魔化そうとするかのように、ふるふると首を振った。
「小夜……」
ボディーソープの豊かな泡を塗りつける様にして、ハジの指は巧みに小夜の感じる部分を探り当ててゆく。あまりにも経験が乏しいお陰で、小夜の体はこれ以上ない程刺激に敏感だ。
前回の時も、やはり同じようにハジの指に翻弄された記憶が蘇ってくる。
確かに一緒に入ろうと言ったのは小夜だ。しかしまさか、貸し切りとはいえ屋外とも呼べる場所で彼がこんな暴挙に及ぶ姿は想像も出来なかったのだ。
けれど『もう自分を押抑える事が出来ない』と小夜を思い遣り、一旦は身を引こうとしたハジを受け入れたのも、また自分なのだ。
「…っあん!」
一際悪戯に、ハジの指が小夜のバストの頂きを摘み上げた。
小夜は思わず声を漏らし、身を捩る様にしてハジの与える刺激を何とかやり過ごす。
「…何を考えているのですか?」
「……っん…や…」
首をのけぞる様にして振り向くと、覗き込んでくるハジと間近で視線が交わった。
「…小夜?」
「……ハジの事。…ハジが…こんな事…するなんて…」
「………私も初めてです。…こんなに自分が抑えきれない事も……、露天風呂で…こんな事をするのも…」
間近で困った様に微笑まれると、小夜は反論する事もままならない。
ハジの美しい青い瞳が小夜だけを映している。
それがどれほど幸せな事か、気付かない小夜ではない。
「……貴女が、私をこんな風にするのですよ。……私の事を考えていたなんて…可愛らしい事を平然と言わないで下さい」
「ハジ…」
「この唇ですか?」
胸を包んでいた左手が頬に延びて、強引に小夜を上向かせる。
懸命に首をひねる様に振り向いてギュッと目を閉じると、優しく唇を奪われた。
ねっとりと絡みつく様な…いつにもまして情熱的な口付けは小夜の理性を溶かすには充分で、小夜はついここがどこであるのかも忘れて…たどたどしく舌先の愛撫に応え男の口内に舌を滑らせる。
労わる様に優しく、舌を吸われる。キュンとした刺激が背筋を駆け抜けてゆく。
「…っん。…あっ…ふ…」
口付けの間にも…両手で押さえ込んだハジの右手が、徐々に移動してゆく。小夜は引き止めるのか…先へ導いているのかも解からない曖昧さで、その腕に指を絡めていた。
ボディーソープの泡が、心地良い。
正しく滑る様に、ハジの掌がバストから下りて括れた細いウェストを撫で回し、やがて固く閉じられた太股の付け根に達する。
濡れた体毛をハジの指先がそっと撫でている。
「…ハ…ハジ…」
今更、止めてとも言えないまま、小夜は両足に力を込めた。体をくねらせて何とか、少しでもその刺激から逃れようとする。
「小夜…。幾らなんでも体が冷えますから…、早く洗ってしまいましょう。……さあ、もう少し足を開いて…」
小夜は抵抗出来ないまま、ほんの少し膝の力を緩めた。するとその分だけ深くハジの指が両足の間に入り込んで、洗うと言うよりもずっと悩ましい所作で小夜の秘所を撫でている。
「…やっ……ん。こんな所…自分で、洗えるから…」
自ら言われたままに足を開いておきながら、どうしても小夜は耐える事が出来ずに悲鳴を上げた。
しかし、ハジはその手を止める事無く、ゆるゆると小夜のそこを探っている。
指の動きに合わせ、ふるふると全身を震わせる小夜の反応を見ながら、次第に核心を帯びた様にハジの指は一点を刺激し始める。ハジの指がそこに触れた瞬間、まるで電流が流れたかのように小夜の背がハジの腕の中で大きく撓った。
思いがけず、大きな快感の波が無垢な小夜を襲ったのだ。がくりと力を失って、小夜は男の胸に背中を凭れる様にして身を預けた。ハジの胸板はびくともせずに小夜を支えてくれる。
大きな波の余韻にぐったりとした小夜の体を抱き寄せたまま、ハジは尚も指先の動きを止めなかった。
豊かな泡は心地良さと同時に、薄衣を隔てた様なもどかしさも小夜に与える。一度は過ぎた波が再び体の奥で生まれてきそうな予感に、小夜は嫌々と首を振った。
「…やだ。も…駄目…。ハジ…」
助けを求める様に、闇雲に腕を伸ばす。小夜のその細い腕をハジは難なく捉えた。
「…すみません、…つい。本当に貴女の体は…感じ易いのですね…」
耳元で謝罪すると、ハジの腕がふっとシャワーのコックに伸びる。
きゅっと音を立ててそれをひねると、驚かさないように低めの温度に調節された湯が降り注ぐ。
片腕で小夜を支えたまま、ハジの手がシャワーのネックを取った。
「もう少し、温度を上げますか?」
「…ううん。大丈夫…」
小夜の答えを聞き届けると、ハジは丁寧に小夜の体にシャワーの湯を当てた。
見る間に全身を覆っていた白い泡が流れ、その下から健康的で滑らかな肌が現れる。
その美しさに、ハジは思わず小夜を抱く腕の力を強めて湯に濡れた首筋に唇を落とした。
後先考えずに、きつく吸い上げるとうっすらと淡くその部分が色付く。
同時に…痛みにも似たつんとした刺激に小夜が非難の声を上げる。
「ハジ…駄目……。…痕が付いたら…」
目敏い友人達に見付かってしまう。
しかしハジは反省の色も見せず…
「…貴女を誰にも渡したくないのです…小夜…」
と続けざまに唇を寄せた。
「ハジ…」
小夜がハジの腕を逃れる様に身を捩り、そうして二人は降りしきるシャワーの湯の下でじっと見つめ合った。
「…ハジ。…ハジが、そんな…子供みたいな事を言うなんて…。…私は…」
「……私は…?」
先を促され、小夜はつい視線を逸らすと小さく続けた。
「…ハジだけ…。こんな…」

今までも、これからも、私にはあなただけ…。

思わず、言葉に詰まる。
「………………。……ですから、小夜…、そんな可愛らしい事を言うのは…この唇ですね…」
「……ハ…ッ…」
深く唇を奪われていた。ハジの掌が小夜の体を愛しげに這い始める。
濡れた髪が肌に張り付いて、幾筋もの流れを作る。
「…あ、…あん。……あぁ…んっ…」
時折零れる悩ましげな嬌声。
ハジは堪らずにシャワーの湯を止めると、小夜の手を取ると立ち上がった。
「小夜…」
いつもなら、ハジはこんな時有無を言わさず小夜の体を抱き上げるけれど、流石に滑りやすい足元に小夜が怖がると思ったのか、優しく小夜をエスコートするのみだった。
激しい口付けに息が上がる。そうでなくとも散々与えられ続けた甘い刺激に足元がふらつく。
けれど、促されるままに、小夜はゆっくりと立ち上がった。
「あ、ありがとう…」
恥かしさは消えてはいない。それどころか、半ば勃ち上り固く…明らかな変化を遂げているハジの股間に思わず目を逸らす。
この間は、受け入れようとして出来なかったそれの存在感を初めて目の当りにして、小夜の脳裏は白く霞んでいた。何も考えられない。ただ条件反射の様に、恥かしさから『きゃっ』と悲鳴を上げて視線を逸らした。
「…小夜」
恋人の初心な反応に、ハジは少し困った様に視線を泳がせると…背を向ける小夜の体をそっと抱き締めた。
見えはしないが、抱き締められ密着する事で小夜の太股の固いそれが押しつけられる。
気付かない筈はないのに…解かっていてわざとそうしているのだろうかと思うと、少し恨めしい。ハジは小夜に対して一体どんな態度を取れと言うのだろう。
「……自然な事ですよ。…小夜、男の体というのは…」
「…解かってる。それくらい解かってるから…。…ちょっと、恥ずかしいだけ…」
「………………」
ハジは無言のまま、そっと腕の中から小夜を開放した。
手を取られ、よろよろと岩風呂に向かう。
一歩踏み出すと、小夜もまた自分の体がハジと一つになる為の準備をしている事に気付かされる。
「…あ…や…」
思わず声が漏れる。シャワーの湯とは明らかに粘度の違う熱い液体が、彼を受け入れるべきその場所から溢れる様に流れ出したのだ。
ぬるりと滑る居心地の悪さに、思わず歩く事を躊躇うと、小夜の手を取ったハジはさも『解かっていますよ…』とばかりに微笑んだ。
導かれるまま、何とかたった数歩の岩風呂へと辿り着くと…ハジはもう一度、桶で温泉を汲んでそれを肩から掛けた。小夜も続いてそれに倣い、並んで湯に浸かる。
優しい彼の事だから、いきなり挿入される事など無いと思いつつも…先程の目の当たりにした彼自身を思うと小夜の体はどうしても緊張してしまう。
しかし次第に…温かい湯の心地良さにゆっくりと解れてゆく。
ハジが無言のまま、迷いなく…けれどゆっくりと小夜の肩を抱き寄せた。
優しい手つきで、すっかりと濡れて滴を垂らす小夜の髪を撫でる。
じっと視線がぶつかると、ハジはもう一度仕切り直すように小夜に口づけを与えた。
優しい口付けの下、湯の中ではハジの掌が再び小夜のバストを揉みしだいていた。
男の腕の中にすっぽりと収まってしまうと、改めてその体格差が感じられる。
すぐ目の前にある男の熱い胸板。その白い滑らかな皮膚の下の鍛えられた筋肉の束に目眩がしそうだ。
小夜はきつく目を閉じると、瞼の裏が熱く燃える様に感じられた。
独占欲にかられるのは、何もハジだけではない。小夜もまた、この男を誰にも渡したくないと思っていた。
何度も繰り返し唇を合わせると、二人の唇から滴り落ちる唾液が離れ難い思いを映し出す様に細く糸を引いた。
翻弄されながら、しかしハジの求めに対してしっかりと自分の意思で舌を絡める小夜に、ハジは優しい眼差しを向ける。心の底から愛されているのだという実感が、小夜の胸の奥を照らし出していた。
もう、ここがどこであっても同じだ。
露天風呂であっても、自宅のベッドの上であっても…。
ハジを愛しいと思う気持ちは隠しようがない。
胸と言わず、腰と言わず、ハジの掌は湯の中でゆっくりと小夜の体を辿っている。
そうして、小夜自身でさえ知らなかった敏感な場所に指先が及ぶと、小夜の体は痛々しい程の敏感さでハジに応え、びくんと大きく揺れた。
その度に、ぱしゃん…と湯を弾いて震える華奢な体をハジは尚の事強く苛んだ。
「やっあ…あん…!」
「小夜…、そんな大きな声を出さないで…。外に聞こえてしまいますよ…」
窘められて、小夜は素直に唇を噛んだ。
「そんなにきつく噛んだら、唇が切れてしまいます…」
愛撫の手を一瞬緩め、ハジが覗き込む。ちろりと舌先が小夜の唇を舐め上げた。
「…だ……って…」
どうしろというのだろう…戸惑う小夜の唇を、その声ごと飲み込んでしまうかの様にハジの唇が覆う。
「ん…んぅ…、は…はん…」
「…小夜」
名前を呼ばれ、顔を上げるとハジが切ない表情で小夜を見詰めている。
どうしろというの?
小夜の無言の問いに、ハジもまた無言で答える。
ハジの腕に促されるまま、小夜はぐったりとした体で表面の滑らかな岩の上に座った。
丁度深めの足湯に浸かる様な恰好で、小夜は正面で再び湯に浸かるハジからふっと視線を逸らした。
少し上せたのだろうか…やはり夜風を冷たいとは感じなかった。
目を逸らしても、ハジの熱い視線が全身を這ってゆくのがありありと解かる。
ハジが小さく喉を嚥下した。
「小夜…足を…開いて…」
「や…まって!」
これでは、全てを彼の前に晒してしまう。
流石に小夜が躊躇うと、ハジはそっとその両膝に掌を掛けた。
「…全部、見せて…。小夜…」
「あ…だって。…駄目よ…ハジ…。こんな…」
自分ですらまともに見る事もない場所を、ハジに晒すなんてとんでもない。
小夜の気持ちなど手に取る様に解かるのだろうに、ハジは『もう抑えられない』と言った言葉通り、その言葉を取り消す事はない。
「…見せて」
ほんの僅かに小夜が怯んだ隙をついて、ハジの手が小夜の両膝を開いた。
小夜は耐えきれずきつく瞼を閉じる。
ハジが、じっとそこを見ているのだと思うと、羞恥は極限に達し…恥かしさで倒れてしまいそうだ。
けれど、小夜はじっとその気配に耐えた。
「…小夜。…とても…綺麗です…、…小夜…」
溜息交じりの感嘆の声に、がくがくと震える体を支える様にして小夜は後ろ手に手を付いた。
ハジの手が尚も大きく小夜の太股を広げる。
その秘めた部分に夜気が当たる。
「…ああ、ハジ…」
今にも泣き出しそうな声で、ハジを呼ぶ。
と、男の固い指先がそっとその部分に触れた。
「っやん…駄目よ。触っちゃ駄目…」
辛そうに体を竦める、思わず閉じてしまいそうな両足は、ハジの体ともう片方の腕に拘束されていた。
非日常的な気配に思わず小夜が目を開けると、もう触れる程傍にハジの顔がある。
「もう、こんなに…。小夜…」
差し出された指先は、明らかに体液で滑っている。
「やだ…」
「…小夜。怖がらないで…」
ハジはそっと囁くと、吐息が体毛を揺らす程近い。
次の瞬間、
「きゃあっ…だ、駄目よ…ハジ。汚い!」
ハジの舌先が、柔らかな小夜の襞に口づけを落としていた。
耐えきれず、小夜が仰け反る。
何とかその刺激に耐えて上半身を腕で支えるものの、初めてそこをそうして愛される恥かしさと戸惑いで小夜は大きく髪を振って身を捩る。
体の力が抜ける。崩れそうなギリギリのところで耐える小夜に、ハジは秘所に唇を押しあてたまま腕を伸ばした。長い腕が柔らかなバストを捉える。
「ああっ!!」
ハジの掌が再び、小夜のバストを刺激する。
その瞬間、とろりと熱い液体が自分の体から流れ出すのを小夜は感じ取っていた。
すかさずそれをハジの舌が舐め上げる。
「……小夜。………小夜…」
今迄に聞いた事もない程、ハジの声が熱く湿っていた。
「……ハジ。…私…」
今度はちゃんと彼を受け入れる事が出来るだろうか…そんな不安を受け止める様に、ハジが微笑んだ。
「…大丈夫です。…小夜…私の愛しい人…」
小夜は、覚悟を決めた様に…きゅっと形の良い唇を噛み締めた。

                                  ≪続≫

20091111
はう。すみません、またこんなところで切っちゃいました…。
もうね、なんて言うか、メッチャ消耗してます。ま、切るならここでしょう(笑)
大体エロを書くのはすごく体力がいると思います。
エロ…エロっていうか。これ…エロいかな?それももう解からなくなっている私の脳…。
嫌われないかビクビクしつつも、何とかここまで辿り着いた〜〜って感じ?です。

ちょっと折角の露天風呂という特殊な環境を生かしきれてない様な気がしますけど、
すみません!!単に私の文才がないのが原因で原因です。

では、後半頑張ります〜。