ハジの寝室に入るのは、二度目だ。
一度目は、出会ってすぐ翌日の事だった。
深く眠るハジの横顔に、思わず見惚れていた事がつい昨日の事の様だ。
けれどまさか、彼とこんな関係になるとは思ってもみなかった。
あれから、二ヶ月あまり。
この展開が、早い事なのか…遅い事なのか解らなかったけれど、少なくとも最初から小夜はハジに惹かれていた。



七月の狼 2  〜君は可愛い僕の仔うさぎ・番外編〜



柔らかなベッドの上に下ろされると、小夜は緊張した様子を隠せないままぎこちなく膝を崩して座った。ハジは『暗くした方が安心出来るでしょう?』と、さらりと言って壁際のスイッチで照明を落とす。
途端に室内は優しいオレンジ色の常夜灯の光が包み込んだ。
それからゆっくりと、ハジは小夜の傍らに腰をおろした。リビングとは違う仄暗い室内に少し安心はするものの、相変わらず小夜の胸は早鐘を打っている。
今にも心臓が飛び出してしまいそうなほど…。
ハジが体重を移すと、僅かに身じろいで退く。
そんな様子にハジが笑う。
差し出された指先が労わる様に小夜の前髪を梳いてくれる。
その掌に、小夜はそっと指を重ねた。そっと力を込めて彼の掌を頬に押し当てた。
どうしようもなく愛しいのは、どちらも変わらない想いだった。
いや、変わらない…どころか、日に日に増しているように思う。
年齢も、互いの立場も、知り会ってからの時間も、何もかも飛び越えて、互いに惹かれあった。もどかしいほどに愛しくて、何も手に付かなくて…。
この気持ちを持て余し、もうどうして良いのか、解らないほど…。
この先に、その答えがあるというのだろうか…。
見上げると、ハジが困ったような表情で微笑んでいる。
緊張して、少し怖いと感じるのは、それが初めての経験だからだ。
決してハジが怖いのではなかった。
そう伝えたい。
けれど視線が合うと、それを言葉にする前に静かに唇が下りてきた。
優しいキスをそっと受け止める。
額を合わせてそっと体を添わせると、視線を伏せたままハジが言った。
「今までも、その気になれば…一方的に…貴女を抱く事も出来ただろうと思います…。しかし…私は…そうではなくて…」
「……うん」
小夜は潔く頷いた。
私の事…待っていてくれたんだよね…。
ハジの腕が力強く小夜の背中を支えた。小夜は男の首筋に腕を巻きつけて、そうしてゆっくりと押し倒されてゆく。スプリングの弾む感触と滑らかなシーツが小夜の体を受け止めた。ついつい強張ってしまう全身の緊張を逃がす様に、小夜が懸命に長い吐息を吐くと、ハジはそれを見届けて小夜の胸元に指を伸ばした。
薄闇の中で、ハジの青い瞳が許可を求めているのが解かる。
小夜は唇を噛んで頷いた。
許可を得て、ハジは上から順に小夜のパジャマのボタンを外した。一つ外すごとに、白い肌が現れる。瑞々しくて張りのある滑らかな肌…形良く丸い曲線を描く乳房。
全部外し終えると、ハジは丁寧に小夜の上からパジャマを肌蹴た。暗い中だとはいえ…見られているのだと思うと小夜はどうしても恥ずかしくて、しかし身を隠す術と言えば、今は細い腕で胸をかばう様に抱いて顔を背けるしかない。
胸を隠すように体を捩り横向きになると、ハジは浮いた片方の肩からパジャマの袖を抜き、丁寧に小夜から上衣を取り去った。
シーツにさらさらと髪が流れ、その髪を繰り返しハジの指が優しく撫でてゆく。
外気に晒された肌が頼りなく、エアコンの効いた室内はほんの少し肌寒い。
けれどじっと身動きも出来ずに固まっていると、間もなくハジが小夜の上に覆いかぶさって来る。いつの間に脱いだのか…素肌が触れ合う。最初は熱いと感じたそれが、次第にしっとりと馴染みあってゆく。
今、この状態が信じられないまま、そっと唇を合わせる。
優しく舌を絡め合いながら、もどかしい様にハジの手が小夜の腰に触れた。
体をずらしてパジャマのズボンを下ろしてゆく男の指先に戸惑いながらも、小夜はやや腰を浮かしてそれに従った。
恥ずかしい。
こんな風にパジャマを脱がされている自分が、小夜には信じられなかった。
けれど、庇う様に再びハジが体を重ねてくる。
恥ずかしいけれど、そうして全身に触れる素肌の感触は、温かく滑らかで心地良いものだ。
「小夜…」
今までよりずっと傍で名前を呼ばれる。こうして寄り添っていると、実際の距離以上に二人の距離が縮まるとでも言うのだろうか…。
恐る恐る小夜は男の背中に触れてみた。
見た目以上に大きく厚みのある胸板、しっとりとした滑らかな肌。硬い肩甲骨の窪み、辿る様にして、小夜は両手を這わせるとその背中にぎゅっとしがみついた。
状況に似合わず、不思議な安心感に包まれる。ハジの耳がすぐ傍にあって、小夜はまるで悪戯を思いついた子供のように、その耳元に唇を押し当てた。先程の彼の真似をして、そっと息を吹きかけてみた。
抱き締めた男の体が一瞬大きくビクンと揺れて、小夜は嬉しくなる。
「小夜…」
咎めるようにもう一度名前を呼ばれ、ハジが小夜の首筋に顔を埋めてくる。
仕返しのように、湿った舌が首筋を舐め上げてゆく。小夜はその刺激に思わず力が抜けそうになるが、懸命に耐えた。小夜の腕に逆らい、ハジは体を浮かすと先程触れた小夜のバストに再び掌を置いた。
「…っハジ」
思わず体が逃げ出しそうになる。
「…小夜じっとして。…まだまだ、これからですよ…」
先程のようにパジャマの上からでなく、直に触れられると尚更刺激が強い。指先が先端に触れ優しくゆっくりと摘み上げられる。途端に全身に甘い刺激が走り、小夜は男の下で体をくねらせた。
「…あっ。…だって、…ハジ…。じっとしてなんて…」
いられない…。
「…気持ち良くはありませんか?」
言葉と共に、ハジは優しい力で摘んだ先端を指先で転がした。次の瞬間、不意に体をずらした男の唇がそっと、その敏感な先端を舐め上げる。
唇で含み、そっと吸われる。
「…や…あぁ…。駄目…、……ハジ…」
背中を抱いていた両手でぎゅっと男の肩を掴み、耐える。
気持ち良い?
これが…?
どこかむず痒いような、もどかしく遣る瀬無い感覚。
背筋が震え、刺激を受ける胸とは別に体の中心が熱を帯びてくるのを感じた。
もう一方のバストも、ハジの掌が触れ、ゆっくりと撫でるような刺激を与え始める。
体中がむずむずとしてじっとしていられない。
「…ハジ。…ハジ…」
どうして欲しい…と言う欲求は具体的な言葉にならなかった。止めて欲しいのか…さらに強い刺激を欲しているのか…自分でもわからず、ただ名前を呼ぶことしかできない。
ハジは繰り返し、交互に左右の胸を愛し、ゆっくりと時間をかけてから漸く顔を上げた。
「…小夜」
「……ハ…ジ…」
ほっとしたのも束の間、ハジは小夜の腕から逃れる様に更に体をずらすと、小夜の細い体の線を辿る様に唇を這わせ、少しずつ下方に下りてゆく。
力強い腕が、それでも細心の注意を払うようにそっと体の線を辿り、その後を唇が追う。
小夜の体の隅々までを確かめるかのように、丁寧に触れてゆく。
ただ優しく撫でられているだけだというのに、例えようもなく恥ずかしくて、くすぐったいような体の芯が疼くような…今までに経験した事のない感覚が小夜の全身を支配する。
男の腕からはとても逃れられそうもないのに…無意識に体を捩り、肌を隠そうとしていた。
「小夜…」
心配そうに、ハジが名前を呼ぶ。
愛撫の手がほんの少し緩くなり、仕切り直す様に、ハジが心配そうに覗き込んでくる。
小夜は懸命にハジの下で体勢を整えると、そっと瞼を閉じて男の唇を求めた。
嫌な訳ではないの…と、小夜にとってはそれが精一杯の愛情表現だった。
求めに応えて、ハジはゆっくりと小夜の唇を割ると優しく舌を絡め取った。戯れる様に吸っては絡め、口腔を辿る。それは優しい彼の掌と同じように、小夜の隅々にまで触れようとしているかのようだ。
ぬるりとした唾液が伝う。
唇が離れると、ハジは瞳を細めて小夜に問いかける。
「大丈夫…ですか?」
「………………ぅ…ん」
何とかそう答える小夜を、男はどう感じたのだろう…。
「緊張…しないで…」
「……解ってる…けど……」
「心も体も硬くなっていては…気持ち良く…なれませんよ…」
「……………」
「まずは、体の力を抜いて…」
ハジは言い聞かせるようにそう告げて、再び腰を優しく撫で始める。
指先が下りて、サイドで結ばれた華奢な紐に触れる。
ハジはその内側にそっと指先を潜り込ませながらも、照れ臭そうに視線を逸らした。
薄暗い中でもはっきりとそうと解る白いレースで飾られた華奢なそれは、明らかに男の眼を意識したもののように感じられたのだ。
ほんの少し間をおいて、小夜を覗き込む。
「小夜?…この可愛らしい下着は…私の為?……それとも、普段から…?」
「…っお、教えない…」
本当は、いつかこの時の為に、以前から準備していたなんて…恥ずかしくて言える筈もなかった。風呂上りに、この下着を身に着けながらも…まさか数十分後には本当にこんな事態になるなんて…。
きっとハジはまた優しく抱きしめるだけで、キスはされてもこんな風に脱がされる姿は想像出来なかったのだ。
「そう?………私は、もし貴女が私の為にこの下着を選んで身に付けていてくれたのだとしたら…。とても嬉しく思いますよ…」
「…………………」
「……解きますよ」
律儀にそう告げる彼に、小夜は小さくこくん…と頷いた。

誰もが通る道なのだ。

その相手がこんなに好きな人なのだから、そしてこんなに大事にされていると、感じる事が出来るのだから…

優しい力で紐はするりと解ける、そうして反対側も…。

ハジの掌が、さらりと撫でるようにしてその可愛らしい下着を小夜から取り払った。
例えそんな華奢な布地一枚だったとしても、とうとう身に纏う最後の一枚を奪われて、小夜の心細さは一気に極限に達していた。
「は…恥ずかしい…」
「小夜…」
こんな状況でも、ハジはいつもと変わらず小夜を労わる様に優しく名前を呼んでくれる。
間近に覗き込む男の顔がまともに見られなかった。
ハジの掌が包み込むようにその部分を覆った。掌はじっと動かない。
「んっ…ふ…」
同時に優しく口付けられる。
差し込まれた舌先が甘く小夜を翻弄し、次第にその掌の存在が小夜の中で薄らいでゆく。
やがて触れられている事に違和感がなくなる頃、唇を甘く啄ばまれながらも、男の指先が淡い体毛に絡みつき優しく撫で始めた。長い指先が固く閉ざされた太股の狭間に、入り込んでくる。
口付けはやまない。少し待って…と訴えたいのにそれもままならず、力の入らない両足の付け根を長い指が撫でる度、小夜の背筋は大きく跳ね上がった。
それが気持ち良いからなのか、くすぐったいのか…、確かに痛みとは違うけれど、耐え難い感覚に翻弄される。
けれど、ハジの手は緩まなかった。
小夜の体をベッドに押し倒したまま、片手がぐいと小夜の太股にかかった。
「小夜…もう少し、足を開けますか?」
「っむ…無理…」
「そう……?」
静かな声でそう答えながら、尚も優しく小夜の肌の上を撫でている。
「…お願いですから、怖がらないで…小夜」
「……ハ…ジッ!」
持ち上げるようにして、ハジが小夜の足を開かせた。
足を開くと一層頼り無く、心細さと恥ずかしさが込み上げてくる。
けれど小夜はギュッと目を瞑り、その羞恥に肌を赤く染めてじっと男の行為に耐えていた。
固い男の指が、小夜の恥ずかしい部分に触れる。薄い体毛の下の皮膚、その柔らかな襞の感触を確かめるように指先が意図を持って小夜に触れる。
体の中心を、ハジの指先が撫でた。
すると思いがけずぬるりとした感触が小夜にも伝わって驚く。
「…小夜。……小夜の体は、きちんと私に応えてくれていますよ…。……こんなに、自分でも濡れているのが解かるでしょう?」
「…え?…ええっ…?」
ハジは返事を待つ事なく、その長い中指をそっと小夜の内部に侵入させる。
ほんの先端だけだというのに、急にその濡れた感触がリアルに伝わって小夜を翻弄する。
初めてだとはいえ、それが何の為の潤みであるのかは小夜にも解かる。
小夜の知らないところで、小夜の体はハジを受け入れようとして準備しているのだ。
何者も侵した事のない小夜の柔らかな秘所に、ハジの指先がゆっくりと侵入し始める。
「っあ!!や…やだ…」
つい零れてしまった拒絶にも、ハジの指が抜かれる事はなかった。
「……小夜…まだ痛い訳でははないでしょう?」
侵入を止めて覗きこんでくる青い瞳に、小夜はただ小さく頷いた。
「…愛しています。………小夜、もっと貴女を体ごと愛させて…」
低い声音で耳元にうっとりと囁かれると、予期せず小夜の体の中心が甘く震える。
「本当は…やだ…じゃないでしょう?」
少なくとも体は、もう隠しようがないほど濡れているのだから…。
「…だって…ハジ…。こんなの……」
「感じる事は……何も…恥ずかしい事では、ありませんよ…」

本当に…?
湿り気を帯びた髪が優しく降ってくる。
言い聞かせるような優しい口付けを受けながら、小夜は何とか全身の力を抜くように努めた。
それを感じ取ったのか…小夜の内部に少しだけ差し込んでいた指を、ハジは徐々に深く押し進めた。
「小夜、解かりますか?」
ハジがゆっくりと指でかき混ぜる。
痛みとは違う奇妙な存在感。自分ですら触れた事のない場所を、ハジはそっとくすぐった。
「っあ、…んん…や…。駄…目…」
しかし、いつしかその声は甘い。ギュッと閉じた小夜の瞼の裏に、ありありとあの美しいハジの指先が思い描かれる。
その長く美しい指先が、今小夜の体内を優しく撫でている。
無防備に男の下に組み敷かれあられもなく両足を開いて、その最も奥まった場所に指を受け入れている自分の姿を思うと、体中が火を噴きそうに熱い。
それは次第にハジの指が小夜の内部に馴染んでくるような…しかしそれでいて存在感を増したような不思議な感覚だった。ハジの指がひときわ優しく小夜の内部を抉った時、自身でもそうと解かるほどドクンと体が揺れて粘度のある体液が流れ出した。
「……小夜。……気持ち…良い?」
どこか感嘆を滲ませた様な響きで、ハジが小夜に問う。
そんな事を聞かないで…小夜はそう思った。

                                                   ≪続≫


20090823
もっとあっさりさくっと終わる筈だったのに、案外に長くなって困ります。
真夏の世の夢です…。
じつはどうしても書きにくくて、このパートから小夜目線に戻してみました。
だってさ〜〜〜〜〜〜〜〜。(何がだ…)
いや自分もそうだけど、読んで下さる方も皆さま女性で、やっぱこの方が感情移入しやすくないかい?と思って。
試してみました。
それにしても、コンダケ書いてもまだ指しか入れてないじゃん!!
果たしてこれを読んで、楽しいと思って下さる方がいらっしゃるのか解かりませんが、もう一話位続けさせて下さい。
(位…っていう適当さがいけないんだよ…)
んでは、ここまで読んで下さってどうもありがとうございました!!
あ〜、本編の二人でイチャツク二人が書きたくなってきたよ〜〜〜〜〜!!!!