『さつきあん』のmamtさまがM子さま宅の小部屋にて開催中の素敵祭りに投稿された
動物園の素敵イラスト「解きますよ」に、妄想止まず三木がSSを書かせて頂きました。
ちなみに設定はmamtさまの描かれた素敵マンガ『SIDE HAGI 青年編』に基づいております。
超おススメです、未読の方はぜひご一読下さい〜!ぜひ!!
mamtさま、イラストの掲載も含め、
快くお許し下さいましてどうもありがとうございます!
そして、これがその素敵イラスト〜〜〜!!
いやん、後からコルセット脱がしてますよ〜〜〜感涙。
mamtさま、いつも素晴らしい萌えをどうもありがとうございます!!

「解きますよ…」
背後から…サヤの耳元で、低く押し殺したような声が囁いた。
その吐息は熱く、彼がその静かな表情の下に隠し持っている情熱の一端を垣間見た様な気がして、サヤの頬は一瞬に上気する。
熱い…。
決して室内の温度が高い訳でもないのに、サヤは身体中が火照る様な錯覚を覚え、背後からそっと抱き締める青年の腕に掌を重ねた。
彼の腕もまた、僅かに汗ばんでいる。
『解きますよ…』と言う、了解を求めるようでいながら…決してサヤに有無を言わせない台詞に、ほんの少しだけ抗議の意を示し、ぎゅっとその力強い腕に爪を立てる。
ハジは、宥める様にサヤの肩先に口付けを落とした。痕が残るのではないかと思う程きつく吸われて、無駄な肉のない細い肩が僅かに震える。
怖い訳ではない。
これは合意の上での行為なのだから…。
それなのに、こんな風に僅かな口付けの刺激にさえ体が震えるのは、その情熱的なハジの仕草にサヤもまた流されているせいだ。
忘れもしない、初めての夜。
ジョエルとアンシェルが所用で一週間ほど屋敷を留守にしたその晩、初めて二人は結ばれた。
やがて二人を分かつ無情な時間の流れに心を痛めながらも、ハジは…サヤもまた自分達となんら変わりなく生きているのだと言う事を教えてくれた。
同じリズムで刻む鼓動、触れる素肌の温もり。
そして求め合う男女が一つになるという行為の、その甘美な痛み。
ハジの刻む律動に身を任せながら、サヤは知らず涙していた。
このまま体だけでなく、心だけでなく、いっそ命の長ささえも同じ様に分け合えたら良いのに…と。
いつかは分かたれる日が来るのだと知りながらも、ハジもサヤも、もうその互いの体の温もりを手放す事など出来はしない。
一線を超えて尚、ハジは人前では完璧にサヤの従者として振る舞う。
二人の感情がどうあれ、サヤとハジと関係は主人と従者なのだ。
知れれば引き離されるだろう禁じられた関係である事は解かっている。
だからこそ、こうして肌を寄せ合える時間は貴重だった。
今日もまた、ジョエルとアンシェルは出掛けている。
帰宅は明後日だ。
時間ならたっぷりとある筈なのに、ハジはまるで惜しむ様に小夜を抱き締めた。
日はまだ高い。
野イチゴを摘みに…と出掛けた敷地の外れに見付けた、今はもう滅多に使用していないらしい管理小屋。戸口の錠前が壊れているのを壊れているのを良い事に、ハジは瞬く間にそのドアを開けた。
二部屋程の小さな作りで、片方は食事でも取れるように…という事か簡素なテーブルとイスが数脚並べて置かれ、奥の部屋は仮眠出来る様にベッドが備え付けられている。
本当はお互いこんなつもりではなかった筈だ。
遠く部屋の隅に転がった籠とこぼれた野イチゴの実を見詰めて、サヤは思う。
人目を気にする必要のない場所で、ただそっと抱き締めて唇を寄せ合うだけのつもりだったのに…。
勿論、こんな敷地の外れにまで誰もやって来はしないだろう…。
それが解かっているから…?
それともハジは最初からそのつもりで自分を連れ出したのだろうか?
それももう、今となってはどうでも良い事だ。
足元に落としたドレスが不自然な皺にならない様に…と気に掛けながら…残された理性がブレーキをかけるのに、ハジの指先が器用にコルセットの紐を解き、胸元を締め付ける拘束が緩まると、それももうサヤにはどうでも良い事の様な気がしてきた。
今までだって野山で散々駆け回り、皺どころか時には裾を解れさせて戻る事もあったのだから…。

ほんの少しサヤの胸が痛むのは、これが秘めた恋だからだろうか…。

ハジは無言のまま、片手で器用に背中を編み上げた紐を緩めていく。
腰を抱いた右手がするりと上り、胸を覆っていた大仰な下着の隙間に指が掛かる。
当然のように柔らかな膨らみに触れる。
薄紅色のレースを除ける様にして潜り込んだハジの右手が、すっぽりとサヤの右の乳房を包み込んだ。
なめらかな肌触りを楽しむように優しく揉まれると、サヤは堪らず腰をくねらせた。
完全に脱ぎ切らないコルセットがもどかしい。
「…ハジ」
名前を呼ぶと、ハジはそんなサヤの気持ちを察したかのように、強引にコルセットを押し下げてサヤの体を背後から抱き締めた。
背後からの抱擁。
ハジの両手がサヤの両胸に触れ、持ち上げる様にして支える。
悪戯な指先が赤く染まった先端をきつく摘み上げた。
「ゃ…ハジ…」
「…お嫌ですか?…サヤ」
本当は嫌ではないのに、思わず唇から零れた音は一瞬拒絶を表す音の様にも取れて、ハジがぐっと前にサヤを覗き込んでくる。
「・・・あ、ち、違うの…。…でも、こんなの…」
立ったまま背後から抱き締められて愛撫を受けるなんて初めてで、サヤは当然ハジが視界の隅に鎮座するベッドへ連れて行ってくれるものだと思い込んでいたのだ。
「…サヤ?」
「……立ったまま…なんて…」
「…しかし、・・・あのベッドは…。シーツも代えてありませんし…」
一度は窓と言う窓を開け放し空気を入れ替えたところで、流石に埃臭いマットレスは確かに頂けない。それにずっと使われていないのだから、もしかしたらカビだって生えているかも知れない。
それでも…。
「…だって…、そんな…。無理よ…」
ベッドが使えないというのに…。
どうすれば良いというのだろう…。
「…止めますか?」
「……っえ…。だって…」
戸惑うサヤにハジは事も無げに小さく笑って見せた。
そんな彼女の態度には、明らかに止めないでと言う意思が感じ取れたから…。
「…大丈夫ですよ…私が支えます」
「無理よ…支える…だなんて…第一…どうやって…」
「……サヤは羽根の様に軽いですからね…」
ハジはそう言って、サヤが答える間もなく華奢な体はふわりと宙に浮いた。
「きゃ…、ハ…ハジ…?」
力強い腕がサヤの体を抱き上げていた。
思わずハジの首筋に縋る様にして抱き締めると、いつもは見上げるハジの顔がすぐ間近にあった。
「ほら…大丈夫でしょう?」
ハジは瞳を緩めて笑った。
「もう…無茶しないで…。怖いわ…」
「怖がらないで…。決してサヤを落としたりはしませんよ…」
「ハジ…」
そっと唇が重なり合う。これがあの夜から何度目の口付けだろう…甘い記憶を反芻するように数えては、途中で解からなくなって…いつしかサヤは心の中で数えるのを止めていた。
優しい口付の狭間で、ハジがサヤに告げる。
「…サヤ。昼も夜も…私は貴女の心も体も…こうして腕の中に閉じ込めて…全てを守りたいと思っているのですよ…」
きっと貴女にはこの腕の中では狭過ぎるでしょうけれど…付け加えて。
「…ハジ」
「サヤ、私を貴女の騎士にして下さるのでしょう?」
ああ、ハジは私の願いを覚えていてくれるのだ…
その場限りの戯言としてではなく…
そう思うと、サヤの胸にじんと熱いものが込み上げてくる。
「…ハジ」
「……私に、貴女を護らせて下さい。…例え、いつか…この身が朽ち果てても…。私の魂は、永遠に貴女のお傍に…」
「そんな事を言わないで…」
そんな先の事まで…。
私を不安にしないで…。
「…愛しています。陽も高い内から…しかもこんな場所で…貴女を求める無礼をお許し下さい。小夜」
ハジはそっと瞼を伏せて、今更ながらにサヤに請う。
いつもなら…、それもこんな場面ではなくもっと違う事柄だったなら…。
きっとサヤは頬を膨らませて『今更何よ…』と怒って見せたかも知れない。
けれど…。
けれど、今のサヤには彼を突っぱねる事など出来はしない。第一、こうして肌を重ねる事に、その人生で初めて味わうこれ以上ない程の幸福感を噛み締めているのはサヤも同じなのだ。
サヤはその伏せた白い瞼にそっと唇で触れた。
ハジがそっと目を開ける。
「…私も欲しいの。ハジ…あなたと一つになりたい」
今はそんな先の事まで考えたくはない。
ハジを失う日が来るだなんて…。
今だけは、このふわふわとして甘く、けれど胸の内側では燃え盛るような…熱い想いに身を任せたい。
ハジは小さく口付けで応えると、そっとサヤの体を床に下ろした。
サヤは、まるで追い詰められたように、壁際に寄り添うと閉ざした窓の枠に後ろ手に捕まった。
締め切ったカーテンが不自然に揺れる。
ハジはそんなサヤに手を伸ばし、やがてサヤの身から完全にコルセットを外す。
彼女の前に跪くと一言、告げた。
「全部…脱いで…サヤ」
サヤの下肢を包む、柔らかな生地で仕立てられた下着に指を掛ける。
サヤは為されるがままに、そのたっぷりとした下着からすんなりと美しい曲線を描く足を抜いた。
足元に跪いたハジの視線が痛い。
こんなに明るい場所では、白い素肌はおろか…秘所を淡く覆う体毛の一本までが午後の光を浴びて恋人の前に晒されてしまう。非日常的な光景に思わず体を捩り隠そうとするサヤを、ハジは押し止めた。
「…見せて。サヤ…貴女はご自分がどれだけ魅力的か…解かってはいらっしゃらない」
「…そんな事、私が解かる訳ないじゃない…」
ぷいと横を向いて強がって見せるサヤの足に、ハジは指をのせた。しっとりとした肌理の細かいなめらかな肌の感触を楽しむようにゆっくりと撫で上げる。
同時に感じるハジの視線はよりサヤの情を煽る。
掌の動きを追う様に、じっとハジの視線が足元から上ってゆくのが解かる。見られたくないという羞恥心と、こうして体を開き包み隠す事無く有りのままの自分を愛して貰える事に対する幸福感がサヤの中で綯い交ぜになる。
「足を開いて…」
ハジの指に僅かに力が入り、それを指示する。拒絶しきれずに膝を緩めると、ハジの手は膝を持ち上げる様にしてサヤの足を開かせた。
ハジの眼前に無防備なそこを晒す…柔らかな襞が外気に触れ、彼の視線が痛い程突き刺さる。
窓の枠に突いた腕に思わず力が入る。
「…ハ…ジ…もぅ…」
見ないで…と抗議しかけると同時に、何の予告もなくハジの指がそこに触れた。
触れられる事で、今まで意識しなかったのに自分のそこが既に濡れている事が解かる。
当然ハジにもそれは解かっているだろう。
淡い茂みに指を這わせ、ぬるりとした蜜壺に指先を挿入する。
「ゃん…、待って…。ハジ…駄目よ…」
「どうして?」
こんなに濡らしているのに?とでも言いた気な青い瞳がサヤを見上げている。
真っ直ぐな視線がぶつかって、ついサヤは先に瞳を反らした…ハジはそれを了解と取ったのか、ゆっくりと潜らせた指を深く埋めていく。
もうはっきりとそれと解かる程、ハジが指を動かす度に粘質な水音が耳に届いた。
自分の体はなんていやらしいのだろう…とサヤは思う。
ハジはこうしていて、サヤに対してそんな風に呆れる事はないのだろうか…。
時折顔を上げてサヤの表情を確かめながら、ハジは丁寧に埋めた指を抜き差ししてはサヤの熱を的確に煽ってゆく。
汗ばんだ太腿に粘液質のそれが垂れてゆく感触が気持ち悪い。
察した様に、ハジの舌先がそれを舐めた。
ぞくりと背筋に衝撃が走り、痺れるほど全身に力が籠る。
「もぉ…お願い…ハジ…。立って……いられないわ…」
「サヤ…」
「支えてくれるって…言ったじゃない…」
「サヤ…」
ハジは一旦指を抜くと、立ち上がりサヤを覗き込んだ。
このまま立たせておくのは無理と判断したのか、ハジは再び小夜の体をふわりと抱き上げた。

□□□

ギシギシと古いベッドのスプリングが音を立てて軋んだ。
ベッドの端に腰かけたハジの膝の上に、向き合い跨ぐ様な姿勢でハジを受け入れたサヤは、嫌々と激しく長い髪をゆすった。体の奥深くにハジを受け入れて、大きく下から突き上げられる度、サヤの中で何かが昂ぶってゆく。ドレスも下着も床に脱ぎ散らかしたまま、大きく両足を開いてハジの上で快楽に身を捩る。与えられる刺激と、自分を抱き締める男に対する深い愛情と、そしてそんな自分をどこか後ろめたく感じる背徳感に、小夜の頬を熱い涙が伝った。
「サヤ…サヤッ…。泣かないで…」
突き上げる動きを止めて、ハジがサヤの頬を吸った。
「…ぁ、泣いて…なんか…。…ハジッ…もうっ…意地悪しないで……」
上り詰める寸前で刺激を止められた体を持て余す様に、サヤが腰を揺らす。
「ッ…サヤ」
腕の中でびくびくと震える小さな体を抱き締めて、ハジは思いの丈を込める様に最後に大きく突き上げた。
「や…ああんっ…」
鼻に掛かる甘い嬌声を漏らして、サヤはハジの腕の中でがくりと力を失った。

□□□

ハジは既に身支度を整えていた。
サヤの背中に回り、先程解いたコルセットの紐を再び器用に編み上げてゆく。床に落ちたドレスを手に取り、丁寧に埃を払うと、慣れた手付きでサヤにそれを着せる。
大きく開いた襟元や、ゆったりとしたパフスリーブを整え、ドレスの裾を直すとやっと申し訳なさそうにサヤの顔を覗き込んだ。
「サヤ、頬に涙の痕が…」
そう言ってポケットから取り出したハンカチでサヤの頬を押さえた。サヤはもう泣いてはいなかったけれど、ほんの少しばつの悪そうな表情を覗かせている。
「……すみません、いつも…泣かせてしまいますね」
「…………ハジ」
エスコートするように手を引いてサヤを隣室の椅子に座らせると、ハジは先程の様にサヤの足元に跪いた。
「望まないのでしたら…そう仰って下さい。私は、ただ貴女の体だけが欲しい訳ではありません」
「……違うの」
サヤは、この心の中にあるその感情を、どうハジに伝えたら良いものか戸惑っていた。
決して、ハジとこうして肌を重ねる事が嫌なのではない。
これは自分でも望んだ行為なのだ。
抱き締めて欲しかったのは、自分の方だ。
「違うのよ…。ハジ…」
「サヤ…?」
心配げに覗き込んでくるハジが愛しい。
サヤは足元に跪いたハジを、身を屈める様にして抱き締めた。
ハジはほんの少し驚いた風で、けれどそんなサヤの全てを受け止める様に優しく抱き締め返すと、そっと長い指でサヤの髪を梳いた。
「ハジ…。ねえ…私…あなたを愛しているの。……でも…これはいけない事なの?…こんな風に、ずっとこの気持ちを隠していかなければならないの?私達、いけない事をしているの?」
サヤの心の奥から退ける事の出来ない大きな錘。
ハジは尚更、強くその腕にサヤの体を抱き締めた。
「…そんな風に思わないで。愛し合う事が…いけない事だなんて………」
「……だって」
ハジの腕の中に抱き締められれば、否応なくサヤは心も体も芯から甘く蕩け出すというのに…今の自分達はこんな風に、人目を盗まなければ…愛していると口にする事すら憚られるのだ。
今まで、ジョエルがサヤの我儘を許さなかった事があるだろうか…。
贅沢な生地をふんだんに使った豪華なドレスも、東洋の深海に眠る大粒の真珠も、サヤが欲しいと言えば手に入らないものなど無かった。
それこそ、気に入らない使用人も、これまでの従者だって、サヤが一言『イヤ』と首を横に振れば、次の日からその顔を見る事はなかった。
それが当たり前だと思っていた。
黙り込むサヤをハジがじっと心配げな瞳で覗き込んでいる。

九年前に初めて出会った少年は、いつしか見違える程大人の男になっていた。そしてサヤの特殊な体質を知って尚、こうして変わらぬ優しさでサヤを包み込んでくれる。
サヤに与えられた僅かな自由の中で、周囲の者は皆、サヤを少女のまま一人取り残して行ってしまう。まるでその代償であるかのように、ジョエルはサヤの我儘な要求を出来うる限り受け入れてくれた。
しかし、今や本当にサヤが欲しいものは綺麗なドレスでも、宝石でもなく、ただ真っ直ぐに自分を愛してくれるハジだけだ。
一見華やかな…贅沢な暮しの中で…本当はずっと寂しかったのだと、こうしてハジの腕の中に居ればこそ、サヤは気付く事が出来たのだ。
「サヤ…?」
「………ごめんね。ハジ…」
本当は全部解かっているの…とサヤは心配げに覗き込むハジに、微笑んで見せた。
そうとはっきりは解からないけれど、今はまだ誰にもこの関係を話してはいけない、そんな事情があるのだと本能が告げている。
第一、ハジは男で尚且つサヤの従者と言う立場なのだから、知られて困るのはハジの方だろう。
その涙に濡れた大きな瞳が健気に笑うのを見ていられなくて…、ハジはそっとその頬に残る涙の痕を親指の腹で優しく拭い、まるで愛する姫に永遠を誓う中世の騎士の様に…まさしくサヤの望む騎士の様に…跪いたまま恭しく頭を垂れた。
そしてゆっくりと顔を上げると、迷いのない瞳でサヤに告げる。
「強くなります。私が…。貴女がもう二度と泣かないで済むように…。いつか…遠くない未来、胸を張って貴女を欲しいとジョエルに請える様に…」
「…ハジ」
二人はもう一度、ゆっくりとその唇を重ねた。
そうしてハジはサヤを立たせ、そのドレスの裾を払うと丁寧に整え部屋の隅に転がった籠に散らばった野イチゴを拾い集めた。
野イチゴで一杯になった籠をサヤの手に渡す。
「では、そろそろ帰りましょう。これ以上遅くなっては…他の使用人にも怪しまれてしまう…」
「…あ、待って。ハジ…」
サヤは胸元に忍ばせたシルクのハンカチを取り出すと、そっとハジを手招いてその唇をハンカチで拭いた。
「口紅が付いたままよ…」
「…サヤ」
黙ってサヤに唇を拭かれながら、ハジは深く瞼を閉じた。
本当はこのまま抱き締めて、どこか二人きりになれる場所に浚ってしまいたい、可愛い人。
「ねえ…私、どこもおかしくはない?髪…乱れてない?」
「ええ、大丈夫ですよ…サヤ」
帰りましょう…とサヤがハジの腕を引いた。
ほんの少し足元が覚束ないのは、無理をさせてしまったせいだろうか…。
ハジがぼんやりと…そんな事を思いながらドアを閉めると、サヤが隣で屈託のない笑顔をハジに向けた。
「このまま、嵐が来ちゃったら…一晩帰らなくても済むのにね…。ハジ…」
先程までの甘い余韻に引き込まれかけていたハジは、咄嗟に眉を寄せ大袈裟に困って見せる。
「…夕食がこの野イチゴだけでは、サヤにはとても足りないでしょう?」
「まあ、失礼ね…」
先に立って歩き出そうとしたサヤを、ハジは優しく引き留めた。
屋敷の傍に行っては、もう手を繋ぐ事も出来ないのだから…。
そっと重ね合わせた掌、絡め合う指にぎゅっと力が籠る。
「…大好きよ。ハジ…だから、…もう野イチゴ摘みはコリゴリだなんて思わないで…」
「……勿論ですよ。サヤ…野イチゴの季節が過ぎたら、次は何を摘みに出掛けましょうか?」
サヤは暫く立ち止まり、考え込むようにして…やがて恥ずかしそうに告げた。
「…ハジと一緒なら、何でも良いわ」
その頬が耳まで赤く染まっている。
そんな様子を微笑ましく見詰めながら、こうして共に歩める道が本当に永遠ならば…自分は悪魔にでも魂を売るだろうと…ハジは小さく甘い吐息を零した。
                           ≪了≫


20080822更新
お祭り会場でこのいらすとを拝見した時、既にもう書きたくてウズウズしてしまいました。
そして、mamtさまのご了解を得る前に、書き始めてしましました〜。
萌の衝動って素晴らしい!!この遅筆な私が…。
何が理由と言うのは自分でも解からないのですが、どうも私はmamtさまのイラストを拝見するとSSが書きたくなってしまうらしいです。
そして、サイトお引っ越しのごあいさつに併せて、メールに添付させて頂きました。
mamtさまのファンの皆様、イメージを壊してしまってどうもすみません!しかし、私はすっきり致しました(笑)
そして何より、mamtさま、本当にどうもありがとうございました〜!!