巡る季節が逝く…。
淡い水墨画の世界に音も無くふわりと舞う桜の花弁を、

男はただじっと見詰めていた。


夜の闇を写し取った漆黒の長い髪と透ける様に白い肌をした美しい男は、

まるでその景色の一部と化してしまったかのようにぴくりとも動かない。


ただ舞い散る花弁を映すその瞳だけが、

あの日の高く澄み渡る空の色を宿して、命を感じさせた。

ひらひらと眼前を舞う桜。


ああ、今年もまたこの季節がやって来た。

瞼を閉じれば、鮮やかに蘇る愛しい少女の横顔。

咲き初めの桜のように、恥じらいながら頬を染める様や、

拗ねたように尖らせる唇、彼女の情を写して…時折紅玉のように光る

円らな瞳。


伸ばしかけた髪を、華奢な指先ですくっては耳に掛ける仕草。

甘えるように自分を見上げ、物言いたげに伏せる瞼。

くっきりと際立つ長い睫毛。


あの日…ちょうど一年前の春、この桜の木の下で、

同じように舞い散る桜を見上げた。


「………小夜…」
男の乾いた唇から、少女の名前が零れ落ちた。

『桜花の下』




一年前の春、

この木の下で共に寄り添い桜を愛でた少女の姿は彼の傍らには無い。
厳密に言えば、日本人どころか…人類ですらない自分達だけれど、

小夜の黒髪も肌の色も、

そして傷付き安い程に繊細な心も、

小夜はこの国に馴染んでいた。
そして、この桜と言う儚い美しい花を、とても愛していた。
いつしか…日本風に、小さな夜と書くようになった彼女の名前。
何度呟いても返事は返らず、男を彼の名前で呼ぶ者もいない。
翼手と言う、人類とは種を違う生物の始祖である彼女は、

長い休眠期とほんの僅かな活動期を繰り返し、

永遠とも呼べる長い命を持つ。
そして、彼女の眷属である男もまた、

彼女の眠りを見守る為に気が遠くなる程の寿命を生き続けている。

食物を摂取する事も、眠る事すらも無く、ただ一人の少女を待ち続けるのが、

男の全てだった。
ちょうど一年前の春…
やはりひらひらと舞い散る桜を見上げながら、彼女は何と言ったのか?
穏やかな声音で、ほんの少しいつもより大人びた口調で…
…愛してる、ハジ…
私は、貴方だけ…
しなやかな両腕を男の首筋に巻きつけて…
今もはっきりと耳に残る甘い吐息…
男の腕の中で数え切れない夜を乱れ…共に達した、

少女は男のたった一人の恋人。
 
□□□
 
小夜は、珍しく誘うような仕草でハジの腕を取った。
桜の花がまるで嵐のように舞い散る景色の中、

うっとりとその名前を呼んで…
「…ハジ」
細い両腕を絡めるようにして、男から難なく主導権を奪った。
古く大きな桜の木の根元、

導かれるままにハジは彼女の体を太い幹に押し付けるようにして、

そっと唇を奪った。

柔らかな小夜の唇の感触、湿った吐息、濡れた舌先を絡め合うと、

するりと小夜の腕がハジの首筋に巻きついた。
耳元で小さな吐息が零れ、やがてそれは意味成す言葉に摩り替わった。
「このまま…抱いて…」
ほんの少し、その声は掠れていた。
その言葉の意味を違える程、ハジは鈍くない。

しかし滅多な事では自分からあからさまに求めるような事はしない彼女の言葉とは思えなくて、

ハジは思わず少女の顔を覗き込んだ。
「…今、ここで…ですか?小夜…」
「…今、ここで、あなたが欲しいの…ハジ」
小夜の情に潤んだ瞳が、午後の光を反射して赤く煌いた。
「この桜の下で…、抱いて…ハジ…」
「私達がこの桜を見付けた様に…もしかしたら

…誰かに見られるかも知れませんよ…」
「ここには誰も、来たりしないから…」
人気のない深い山の奥だからといって、いつもの小夜の台詞とは思えなかった。
…それとも、見られたところで構わないという心境なのだろうか?
どちらにしろ…小夜がハジを欲しているのは、

その赤く潤んだ瞳の色からも明らかで、

ハジはその魅惑的な誘いをはねつける事は出来なかった。
 
小夜は人里離れたこの桜の古木をとても愛していた。
この現代にあって、未だに開発の手を逃れ、

深い山間の閉ざされた道の向こう…僅かに開けたなだらかな斜面に、

たった一本だけその木は立っていた。
初めてこの木を見付けたのはもうずっと昔の事で、本来ならば気付く筈も無い

その存在を見付けたのは、偶然にもハジの翼のお陰だった。

高い空から、鮮やかな新緑の緑に混ざって、

そこだけほんのりと頬を染めたような薄紅。
それ以来…春が訪れる度、二人はこの桜の元を訪れる。

傍に降り立ってみると、黒く節くれ立った太い幹に、空を覆うように広げた見事な枝ぶり。

花の色は淡く墨を刷いたように高い空を霞めていた。

そこだけが下界とは別世界のように、清浄で優しい空気が満ちていた。

咲き初めも、満開も良いけれど、

二人は今のような、この最後の桜吹雪を一番見事だと思う。

初めは一枚二枚と数える程度だったそれが、やがて時を選ぶようにして

一斉に視界を一面の薄紅色に染める。

その散り際の潔さを、二人は愛していた。
あれからもう、何年になるのか…
小夜の長い休眠の間にも、桜は花をつけ、鮮やかに散り、

そして再び目覚めた小夜を迎えてくれた。
 
彼女の体を抱き締めると…このままこうして二人、体を繋いだまま…

この美しい桜の下で永遠の眠りに就く想像がハジの脳裏を過ぎった。

激しく舞い降りてくる桜の花弁はやがて二人の骸を薄紅色に覆い尽くし、

そうして人知れず心安らかに土に還るのだ。
もし、自分達が、ごく有り触れた人間の恋人同士だったなら、

瞬きをする間のように短いその一瞬の生にそのありったけの愛を注ぎ、

子孫を残し、やがて土へ還る事が出来ただろう。

けれど、ハジと小夜、二人に許されたのは永遠とも呼べる長い時間…
生物として子を成す事すら許されない関係でありながら、

触れれば堕ちる果実のように、

互いを求めてやまない自分達の存在は一体何だというのだろう…。
植物の中には、それこそ太古の昔からその命を繋いでいるものもある。
では、我々もそのように…?
ハジは、こみ上げてくる切なさを押し殺すように、

抱き締めた小夜の首筋に顔を埋めた。
もしかしたら、既に二人は桜の魔力に引き込まれているのかも知れない。
小夜の細い体を、折れんばかりに強く抱き、

ハジは体中を巡る熱い欲望にその空想を振り払った。

この燃える様な体の欲は、植物の清らかさから余りにも掛け離れたものだろう。
まるで、二頭の肉食獣のように…もう互いの体を貪る事しか出来はしない。
堪えきれず、ハジは柔らかな下生えの上に小夜の体を横たえた。
優しく労るように髪を撫でる仕草にも、小夜は背筋を震わせる。
「寒くはありませんか?」
切なく潤んだ瞳でハジを見上げ、

余裕の無い笑みを口元にのせて両腕を差し伸べる。
「あなたが暖めて…ハジ…」
それを受けて、ハジは彼女の視界を塞ぐように小夜の体に覆い被さった。
どこもかしこも柔らかい少女の体。

数え切れない程肌を重ね、

それでも尚ハジは小夜に触れるだけで己の中に潜む獣性が目覚めるのを感じる。
それ以外何も考えられない程、頭の中が熱く沸騰してゆくのがわかる。
欲望のままに泣かせてみたいのに、

けれど…彼女を傷付けるのが恐ろしくて…

その抱擁はいつももどかしい程優しくなる。
そっと肌蹴た胸元に唇を落とし、くすぐるように甘噛みを繰り返すと、

小夜が謡う様に泣いた。

嬉しいのか、悲しいのか、自分でも、もう解らないの…と、

零れた涙を白い手の甲
で拭う。

ハジは小夜の手を取ると、熱い滴を舌先で舐め取った。
そんな小夜から、考える暇を奪うかのように、

ハジは手早く彼女の胸を露に剥いた。

丸い両の乳房を大きな掌で包み込むように撫で上げる。

ゆるゆると円を描くように、そして時折強く握り締めては、

焦らすように指先で先端を擽る。
まるで花開く直前の蕾の様に色付いた乳首を唇に含むと、

小夜は…ああ……と湿った吐息を零し、まるでもっととせがむ様に、

ハジの長い髪に指を絡めた。
彼を離すまいと絹のような髪束と共にきつく頭部を抱き寄せる。
性急に、ハジは小夜の下肢を弄った。
乱れて捲れ上がったスカートの裾をかき分けて彼女の滑らかな太股に触れると、

荒々しくその白い皮膚の上を撫で上げ、指先をその付け根にまで進める。
「ハジ…」
恥らうような、誘うような声で小夜が男を呼ぶ。
ハジは応える事無く、薄い布地の上から小夜のその貫かれるべき秘部に指を押し当てた。
既に彼女のその部分はぬるぬると潤っていて、

彼女を覆うその布も既にぐっしょりと濡れていた。
「小夜…もうこんなに…」
小夜はほんの少し視線を逸らすと、恥ずかしげに唇を噛む。

そんな恋人の姿にもハジは躊躇う事なく、

小夜の清楚な下着に指を掛け手際良く取り去った。
掌にすっぽりと収まる膝頭を掴むと両足を大きく広げさせる。
一連の性急な求めにも、小夜は素直に従った。彼女が求められるままに、

大きく両足を開くとハジはまるでもう閉じる事を禁じるかの様に、

その狭間に体を横たえた。
普段、外気に晒される事のないその部分がハジの眼前に露になる。

自分以外の誰の目にも晒される事のない淡い茂み、その薄紅色の花弁。
望みのままに、ハジは小夜に触れた。

確かめるように丁寧な手付きでその襞に触れ、

最早溢れんばかりに濡れたその部分にそっと指を差し入れる。
小夜はゆっくりと仰け反るようにして、その感触に耐えていた。

しかし長い指が徐々にその奥へ進むと、小夜は堪らずに大きく腰をうねらせた。

より多くの刺激を求めるように、懸命に縋り付いてくる。
「ああ、…あ、…んん。ハジ…」
もどかしい。もっと感じたい…。
そう訴えるように、小夜の腰はもどかしく蠢いた。
ハジは胸元を彷徨わせていた顔を上げると、そのまま予告する事もなく、

湿った茂みに顔を埋め、尖らせた舌先を彼女の最も敏感な突起へと這わせる。
その瞬間…弾かれたように、びくんっと大きく小夜が体をくねらせた。
熟れ切った小夜の体を焦らすように、

ハジはゆっくりと彼女の内部を掻き混ぜる指を増やした。

湿った音が耳につく。
小夜はきつく瞼を閉ざし、身を捩り、ああ…と鼻に掛かる切ない息を零し、

それでもハジの与える甘い責めに耐えている。
愛しくて、堪らなく愛しくて…
ハジは、自分の方がもう堪え切れないと言った様子で一旦彼女の体を解放すると、

ぐったりと乱れた肢体を投げ出し脱力する小夜の隣でベルトを外した。
小夜の言うとおり、二人の他に人の気配は感じられなかった。
ハジは大きく息を吐くと、物憂げに…けれどその先の世界へ誘う様に、

ハジをうっとりと見上げる小夜の体を抱き締めた。
いつか…二人、本当にこの長い命が終わる瞬間…、

やはりこの桜の下で寄り添っていられたら…。

二度と何者も二人を別つ事無く、

まるで化石のように…静かに土に還る瞬間が訪れたとしたら…、

心は穏やかで居られるのだろうか…。
それとも、彼女を守るべき彼女のたった一人の騎士として…

そんな事を思う自分はもう気がふれているのだろうか。
もしかしたら、この桜の木の下だけ、異次元に迷い込んでしまったのかも知れない。
もしかしたら、この世界にはもう小夜とハジしか存在しなくて、

ただ吹き抜けてゆく風だけが、そして舞い散る桜だけが…二人を見守っているのかも知れない。
 
 
強く抱いて…深く小夜の体を貫くと、彼女の体は歓喜に震えた。
熱く包み込んで絡み付いてくる内壁の刺激に、ハジは激しい目眩を覚えた。
ずっとこうして居たい。

それなのに、今すぐにでも荒々しく突き上げて吐き出してしまいたい欲望が、

こみ上げてくる。小夜はしなやかな両腕をハジの首筋に巻きつけたまま、

熱い息を吐いてハジに合わせ腰を揺らしている。

半分しか脱いでいない衣服が、しっとりと汗で湿る。
小夜のペースを思い、穏やかに刻もうとする律動が、

抑えきれず…ややもすると暴走しそうになるのを、ハジは懸命に堪え…

時折リズムを崩しては小夜の熱を煽ってゆく。
密着した下半身が、溶け出して一つになってしまったかのような錯覚に襲われる。
どこまでが自分で、どこから先が小夜なのか…熱に麻痺した頭では解らなくなってしまう。
言葉にはならない一体感と、咽び泣きたいような恍惚が、交互に訪れては二人を頂へと導いてゆく。
今までぎゅっと閉じられていた小夜の瞼が、うっとりと開く。
涙と熱に潤んだつぶらな瞳は、彼女の持つ本来の紅玉色の輝きを宿していた。
ハジの黒髪を結った濃紺のリボンが解けかけている。

小夜はそれを見付けるとそっと指を絡めた。弄ぶように一気にそれを解くと、

流れるように豊かな黒髪が肩先から小夜へと零れ落ちてくる。
乱れた髪に愛しげに指を絡めて、優しくハジの耳へと掛ける。
ハジの白く面長の輪郭が露になり、切れ長の青い瞳が明るく色を増した。
限界を感じさせる、それでいて、ハジを優しく労るような声音で、小夜が小さく囁いた。
「…っ綺麗ね…ハジ」
熱くハジに絡みつく内壁とは裏腹に、どこか長閑にも感じられる台詞。
「…桜…ですか?…小夜…」
ハジの言葉が的外れな事を示すように、苦しげな唇が僅かに綻んだ。
「…ハジ…が」
「……私…ですか…?」
「ええ、ハジは私の知るこの世界で一番美しいわ…。

私のハジ…、愛してる…私には貴方だけ…」
「小夜…?」
覗き込む瞳は、涙に潤んでいた。
 
□□□      
 
あの日、男の腕の中で小夜は何と訴えたのか…
 
今も、薄紅の吹雪の向こうに永遠の少女がいる。
瞼を閉じれば、いつも…
こんな自分を見たら、小夜は呆れて笑うだろうか…。
男は黒い幹の根元に長い体を折っていた。しゃがみ込んで丸まった背中が震える。
優しい小夜の指の感触や、甘い吐息を思い出すだけで…、

今更…枯れたと思っていた何かが溢れ出すのが解る。
どくん…
体中の血が勢いを増して流れ出す。
「…っ小夜…」
堪えようもない小夜への想いが、彼の体の内を駆け巡った。
そっと下肢へ伸ばした指が、遥かな過去の記憶を辿る。
たどたどしく掌の中に包み込む、これは…優しい小夜の指。
戸惑いながら、男は愛しい恋人の指の動きを真似た。

忘れようもなく…脳裏に蘇る記憶…耳元で笑う彼女の吐息は切なくなる程甘くて、

抱き締めてくれる華奢な腕も、優しく髪を梳いてくれる指先も、

覗き込む潤んだ瞳も…こんなにリアルに思い出せるのに、

今は傍らにない事が男の胸を締め付けた。
「…小夜…、小夜…」
知らず、涙が頬を伝った。
 
あの日、共に乱れた腕の中で涙に潤んだ瞳を自分に向けてなんと言ったのか…
 
□□□
 
風邪に舞う花弁を目で追いながら、二人はじっと寄り添っていた。
共に上り詰めた体の汗は、既に乾いている。
肌蹴て…乱れた衣類の前をかき合わせるようにして、

ぴったりと寄り添う小夜は気だるい体を起こして言った。
見上げる空は高く澄んで、舞い散る桜の花弁が視界を覆っていた。
「ハジ…私が眠っている間、私以外の誰かを愛しても…良いのよ…」
台詞とは裏腹に、小夜の表情は今にも泣き出してしまいそうで、とても見てはいられない。
「何を言っているのです?小夜…あり得ない事を…私は…」
私が、貴女以外に…誰を愛すると言うのです…
ハジが言葉にするより早く、小夜が彼の腕の中からするりと抜け出した。
「ハジ…寂しい想いばかりさせて、ごめんね…。

いつも貴方一人を残して眠りに就いてしまう私を…、許してね…」
「小夜…」
「あのね、…もし私が眠っている間に、ハジに私の他に誰か好きな人が出来たら

…その人の事、愛しても良いんだよ…」
「小夜…何を言っているのです?」
「寂しい想いをさせて…」
言葉にならず、小夜はハジの胸に崩れ落ち…
彼が腕の中の少女の頬に指を添えて…強引に表情を覗き込むと、小夜は気まずそうに視線を逸らした。
「ハジ…ごめんね…。誰を愛しても良いから…

でも、でも、この…桜の季節だけは、私の事を…思い出して…」
ハジはゆっくりと言い聞かせるように、彼女の名前を呼んだ。
「小夜…、本気でそんな事を言っているのですか?

 …ちゃんと私の目を見て言って下さい。…本心でそんな事を言っているのですか?

私に貴女以外の誰かを愛せなど…小夜」
「だって…だって…ハジ…」
涙声で訴える、その横顔に優しく唇を押し当てて、ハジはその背中を繰り返し撫でた。
「私に、一体貴女以外の誰を愛せというのです…?」
「だって…」
やがて、その涙声は詰まり、苦しげな嗚咽に変わった。
涙でぼろぼろになった愛しい横顔に、ハジはそっと優しく唇を押し当て、

繰り返しその背中を撫でる。
「一人で、思い詰めないで…小夜」
ハジの穏やかな声音に、小夜の心が揺れ動く。

張り詰めていたものが一気に堰を切った。
「ハジ…ごめんね。……我侭な私を許して…。本当は嫌なの…。

ハジ…私以外、誰も愛さないで…誰も…。私だけの…貴方でいて…ハジ。

ずっと一緒に居たいのに…ハジ…」
眠る事すらなく、あまりにも永い時を生き続けたお陰で、

見なくていいものまで見てしまった。知らなくていい事まで知ってしまった。
悟るには程遠い。けれど、この世の理も、この世の無常も、美しいものも、

醜いものも知ってしまった。

そして、やはり、自分には小夜しかないのだと…、

言われるまでも無く、彼女以外の全てのものから瞳を閉ざし、

彼女の声以外全ての音から耳を塞いでは居なかったか…。
けれど、それを寂しいとは思わない。
自分は既に気が狂っているのだろうか…
「愛していますよ…。永遠に…小夜。貴女だけ…愛しています」
ハジは、愛しい少女にそう愛を誓うと、

約束の印に…恭しく小夜の手を取りその甲に唇を押し当てた。
 
□□□
 
「小夜っ…」
男は苦しげにその名を呼んで、その想いを解放した。
上がる息を堪え、そっと瞼を閉じる。
「貴女以外の誰を愛せと言うのです?小夜…」
解けた黒髪がふわりと舞い上がり、風が男に応えるかのように吹き抜けて、

鮮やかな薄紅が視界を被い尽した。
 
 
桜の下には屍が埋まっていると言ったのは、一体誰だっただろう?
薄紅の花弁が、やがて男の体を被い尽くしてゆく。
ただ一人の少女の目覚めを待って…じっと佇む男は、

まるで化石のように再びぴくりとも動かない。
いつか、その日がやってくるまで…愛しい少女がその瞼を開けるまで…
ただ、舞い上がる桜吹雪だけが彼の想いを包み込んでいる。
脳裏には咲き初めの花弁のように可憐な少女。
 
薄紅色の風の向こうで、小夜が笑っている。
 
        20070404 脱稿   三木邦彦
Spesial Thanks!!  イラスト mamtさま 『さつきあん 

…ハジが、一人で…ナニしてる…。ああああ〜〜〜〜mamtさますみません〜〜ごめんなさい〜〜!!
って言うかですね、最初からそういう話を書こうとは全く思っていなかったのですが、結果的に。
でもでもでも、決してmamtさまのハジがそんな風と言う訳ではなくて!!
ええ、本当にそんなつもりでは一切書いておりません!!
お気を悪くなさらないで下さいませ〜〜。平謝り〜〜!!
偶然にも今朝、Eさまのブログでハジの○欲についての記述を発見しました。
う〜〜奥の深い人です。ハジ…。
個人的には、どんなハジも好きですが。既に末期。


今更御存知の方ばかりだと思いますが、
『さつきあん』さまへはこちらからどうぞ〜。




そして、何事も書いてみるモンです!
素敵サイト「からっときたい」のやりつたいがんさまが、この「桜花の下」を元に
素敵漫画を描いて下さいました!!んもう!!メチャメチャ得した気分でいっぱいです!!
私の拙い元SSから、こんな美人で可愛い小夜たんが!!そして漂う甘い大人の雰囲気!
絵と台詞で語られるハジ小夜の愛の世界にうっとり!特にマンガの描けない身としては憧れるばかりでございます!
やりつさま本当にどうもありがとうございました!!(ご紹介が遅れて申し訳ありません!)
それでは、ハジ小夜素敵サイト(他にも聖矢とかみどころいっぱいです)『からっときたい』さまへは
こちらからどうぞ〜。