三十年という月日は決して短くはない。
例えそれが、永遠とも呼べる程長い寿命を持つシュバリエの青年にとっても…。

積年の、あの長い戦いが終わった夜…ハジはそれが永遠の別れになるのだと思っていた。

やっと、この長き戦いの日々に終止符が打たれ、自らに課せられた役目が終わろうとしている。

小夜を護り、導き、そして戦い続ける事、時にその重責に崩れ落ちそうになりながらも、

自分は全うする事が出来たのだろうか…。


以前から自分は間もなく死ぬのだろうと言う漠然とした予感を抱いていた。

いや、例えこの命を落としてでも、ここで戦いを終わらせるのだと固く心に誓っていたのだ。

死ねば…もう自分は小夜の傍らにあって、彼女を護る事は叶わなくなる。


しかし少なくとも、今の小夜はもう一人ではない。

彼女の事を思う青年も、友人も、そして何より仲間がいる。

生まれたばかりの双子の姪の存在も、きっと小夜の心を慰めてくれるだろう…。

だからもう、自分はいなくても大丈夫だ。

自分はきっとこの一瞬の為に、この長い生を生きてきたのだ。
アンシェルの胸に止めの一撃を付き

たてたまま、一瞬のうちにハジの脳裏をそんな想いが駆け抜けた。


そうして自分は本当にここで死ぬのだと悟り、最愛の女性に想いを告げた。


その瞬間になってようやく言葉にして告げる事が出来た深い想い。

幼い頃から抱き続けた小夜への思慕、枯れる事のない愛情。

『小夜…貴女を愛しています』

自分がここで死ぬだろうと言う事よりも、青年はむしろずっと心の中に秘め続けた主への嘘偽らざ

る想いを伝えられたこと、そして何より彼女が再び生きる望みを抱いてくれた事に満足さえしてい

た。
愛した少女は、元々素直で明るい性格だ。

仮に時間がかかったとしても、この先いつかきっと…自分が居ない事にも慣れて幸せな未来を築い

てくれる筈だと思った。
けれど…。
ハジは再び生きる事を赦され一命を取り留めると、今もこうして少女の眠りを見守っていた。
 
あの戦いから、既に三十年という長い月日が流れていた。
 

『咆哮』
 

小夜が長い休眠から目覚めて、三度目の満月の晩。

月の冴え冴えとした光は地上に降り注ぎ、辺りを照らしている。


深夜、ハジは窓際の長椅子に深く身を預け、読み掛けの本を開いていた。


シュバリエである青年は、明かりを点さずともカーテン越しに差し込む青白い月の光だけで頁の文

字を苦も無く負う事が出来る。


すぐ傍らには愛しい少女が眠るベッド。


月の光は細く長くベッドまでとどき、幾重にも重なって皺になった白いシーツに複雑な陰影の模様

を落としている。


小夜はその真ん中で、自らの体を抱き締める様にして眠っていた。

もう少し、楽な姿勢で眠ったら良さそうなものなのに、まるで母親の胎内に居るかのように体を丸

めて眠るのは、昔二人で旅をしていた頃から変わらない彼女の癖で、ハジはそんな小夜を愛しく思

うと同時に、未だに何者かに怯えている様な姿がどこか痛ましくも感じられる。
どんな夢を見ているのか…。
彼女がまだ母親の体内でそうしてまどろんでいた時、まるで一つの命の様に傍らに寄り添っていた

妹はすでに居ない。


ディーヴァを倒す事が、長い間彼女にとって唯一の使命であり、あのオペラハウスの夜、その願い

は果たされた。しかし、それが本当に正しかったのかどうか…、ハジには判じかねた。


誰しもがそうであるように、自分が何者であるのか…事実を何も知らされないまま彼女は『人』と

して育ち、そしてある日突然に育った楽園を追われた。


彼女に落ち度などなかった。


そして回る運命の輪に導かれる様に、時に極寒の吹雪の中で、時にアスファルトに覆われた都会の

狭間で、小夜とハジ…二人は互いに肩を寄せ合い、数え切れない夜を超えてきた。


生きる為に…そしてそれは即ち彼女の望む『死』を叶える為に…。


あれから、もうどれだけの月日が流れただろう…。


今もう、二人を追いつめるものは何もない。まさかこんな平和な日々が再び自分たちの上に訪れる

とは想像すら出来なかった。それは嘘の様に穏やかで、何も知らずに笑えた少年の頃の様な平和な

日々。


しかしもう、二人は何も知らなかったあの頃に戻れる筈も無かった。

ハジは思う。


一度は『死』を覚悟した自分が、今ここにこうして生きる事を揺れされている奇跡の意味を…。


ハジはずっと測りかねていた。生きとし生けるものの全てがそうであるのならば、あの絶望的な瓦

礫の中から自分が奇跡的に助かった事にも意味がある筈だと…。

小夜…。

自分は待っていた筈だ。

決して短くはない三十年という時の流れを、ただひたすら彼女の目覚めの瞬間だけを待ち望んでい

た。


最愛の女性との再会を、自分は待ち侘びていた。

彼女が目覚めるのを…。
その瞬間を…。
そして同時に、ハジは恐れていた。


彼女が目覚めてからの数か月、朗らかに笑う円らな瞳も、時折はにかんだ様に上気する薔薇色の頬

も…ハジにとっては愛しくて堪らない小夜の一面だった。しかし、そんな彼女の姿を見ていると、

ハジは時に狂おしく苦い思いに駆られる。


昼間、どんなに小夜が明るい笑顔を投げかけても、彼女の心の奥にはまだ癒える事のない深い傷痕

が残っている。


女王たる双子の姉妹に罪はない。


人類の欲に弄ばれた、彼女達は被害者なのだ。


そして小夜は人類の平和と引き換えに、たった一人の妹をその手に掛けると言う新たな罪を背負っ

た。誰が強いた訳でもなくそれは彼女自身が選んだ事だったのだとしても、小夜もまたあの場で死

ぬつもりだったのだ。だからこそ余計に生き残ってしまった彼女のその罪の意識は限りなく重いだ

ろう…。
その点に於いて、誰が小夜を責めるわけではない。

むしろ自分が選んだ事実だからこそ、彼女は自分ひとりを責め続ける。


周りには気を遣って笑顔を覗かせながら、その心の奥深いところで…。

どんなには平和な時代がやってきたのだとしても、一度失われた命が戻らないように…小夜の心か

らあの戦いの記憶が消える事は永遠にない。


仮に全てを忘れる事で一時その苦しみから逃れる事が出来たのだとしても、彼女自身がそんな偽り

の安寧を望みはしない。


彼女の贖罪の度は、形を変え今も終わることなく連綿と続いているのだ。


ハジは、そんな彼女の傍らにあって、少しでも彼女の負う心の傷を癒してやりたいと思う。


けれど、どんなに彼女を想っても、どんなに深く彼女を愛しても、自分には小夜の負った傷を本当

に癒す事は出来ないのではないか…。


それどころか、自分は小夜を傷付ける為に存在するのではないか…。

そんな想いが、ハジの胸に燻り続け、夜毎にその存在を増してゆく。

ハジは開いた本を閉じると、ゆらりと音も無く立ち上がった。

床に長い影が伸びる。

少女の眠るベッドに歩み寄ると、その傍らにそっと腰掛ける。

ベッドが僅かに軋んだ音を立て、微かな気配に小夜が寝返りを打った。

呼吸に合わせて規則正しく揺れる小夜の体。

小さく息を吸う度に、穏やかな寝息を吐く度に、彼女の白い胸元は緩やかな上下を繰り返す。少女

特有の細く丸みを帯びた体。
長い睫毛が縁取る瞳はうっすらと閉じられていて、無垢な寝顔は彼女

の安らかな眠りを示していた。
それを確かめて、ハジの表情にも安堵の色が浮かぶ。

「小夜…」


彼の唇がゆっくりと彼女の名前を呼ぶと、静まり返った室内の空気が震えた。

以前の様に…と伸ばし始めた小夜の黒髪が薔薇色の頬に掛かる。懐かしく、ハジは思わず伸ばした

指先で、用心深くそれを払うと、俯き加減なその横顔が露わになった。


遠い昔から、ハジはこうして小夜の眠りを見守ってきた。


安らかな寝息に安堵し、時には夢の中で流す彼女の涙の重さに心を痛め、そしてまた、その無防備

な寝顔に切なく苦しい恋心を押し殺してきた。


誘われるようにそっと、青年は身を屈め、淡く上気した柔らかな頬にひとつ唇を落とす。

小夜の瑞々しい頬を掠めただけの優しい口付けは、彼女の眠りを妨げないように一瞬で離れ、安ら

かな寝息に安堵したハジは静かに身を翻した。


長椅子には戻らず、ひっそりと窓辺に立つ。


ずっと傍に居たい。


けれど、彼女の寝顔を見ていると、ハジの胸の奥で獰猛な獣が首を擡げようとするのが解かる。そ

の獣はハジ自身の本能だ。それはもう『お前はもう人ではないのだ』と、牙を剥き、ハジの中でゆ

っくりと目を覚ます。こうしていたら、その鋭い牙でいずれ小夜までも傷付けてしまうだろう。


パタンと小さな音を立てて施錠を解き、天井までの大きなガラス戸を開けると、白いカーテンがふ

わりと舞い上がった。


ハジは音も無くルーフバルコニーに踏み出すと、ちらりと眠る小夜に視線を投げ、物言いたげな唇

を噛み締めて、そっと瞼を閉ざすと白い月の光に向き直った。


二人の暮らす部屋は高層マンションの最上階にある。

眼下には星空をちりばめた様な夜景。ハジはその景色を一人見詰めながら、徐に白いシャツを脱ぎ

捨てた。


決して線が細い訳ではないけれど、均整の取れたしなやかな筋肉に覆われた彼の体のラインはどこ

か繊細で、まるで優美な彫刻を見ているようだった。


濃密な夜の空気に惜しげも無く美しい裸体を晒し、彼はゆっくりと深い呼吸を繰り返した。


僅かに肩が揺れる。

胸の奥から絞り出す様に深く長い息を吐きながら心持ち背中を丸める。


何かに耐える様に苦悶の表情を浮かべ身を震わせると、彼の背中の筋肉が徐々に別の生き物の様相

を呈し、隆々と盛り上がってゆく。やがて肩甲骨の辺りからそれは彼の白く滑らかな皮膚を突き破

る様に姿を現した。めきめきと音が聞こえてきそうな程力強い、一対の大きな翼。


コウモリのそれをイメージさせるその翼は、しかしこの世に存在するその生物にも当て嵌まらない

形状をしていた。羽化したばかりの蝶が羽を広げる様に、ハジは背中に出現した漆黒の翼を大きく

広げてゆく。


二度三度、感覚を確かめる様にゆっくりと羽ばたくと、それは皮膚が硬く変化したものなのだろう

か…夜の闇を映した硬質な表面に冴え渡る月の光がきらりと反射する。


翼の動きに合わせて、ハジが軽く足元を蹴ると、彼の体は難なく宙に舞い上がった。


ばさりと風を切る音が響く。



それは久しぶりの感覚だった。
 
恐れていた。
ずっと…。
自分自身を…。
自分の心の奥底に巣食う獣の存在を…。

いつ暴れ出すのかも知れない、その獣の気配を常に意識しながら…気の遠くなる程長いこの時の流

れを生きてきた。
小夜を愛すれば愛する程、自分は人ではなくなってゆくような恐怖感が胸を締め

付ける。


いつか、彼女を傷付けてしまうのではないか…。


根拠のない不安が常に心に渦を巻いていた。

それなのに、自分は小夜から離れる事も出来はしない。

あのまま、小夜の穏やかな寝顔を見ていたら、とても冷静でいられる自信はなかった。


苦しくて、苦しくて…脳裏が熱く霞んでゆく。

胸の奥から迸る想いは熱く男の体を駆け巡り、ハジの中で荒ぶる獣が咆哮を上げる。

小夜…
愛しています…と。
青白い月を背に、大きな翼をもつ一頭の獣が身を躍らせた。
 
□□□
 
行ってしまった。

小夜は背中でハジが飛び立つ気配を感じ取っていた。


気配を殺し、堪えていた長い息を吐く。

ころんと寝返りを打つと、彼が出て行ったガラス戸が僅かに開け放たれたままで、微かな風の気配

に白いカーテンが揺れている。昔、出会った頃に戻れる訳でもないのに、少しでものあの頃の二人

に戻りたくて伸ばし始めた髪が頬を擽る。


はあ…と小さく溜息が零れてしまう。

小夜はハジがそっと唇を落とした頬を掌で押さえた。

ハジはとても優しくて、そしてとても残酷な人。

触れる彼の指先や、肌に掛かる吐息。

女性ならば誰でも息を飲むほど端正な顔で、澄んだ空の様に美しい瞳で、じっと覗き込んでは微笑

んであの深く響く甘い声で耳元に愛を囁くのに…。


それなのにハジは、いつも必ずその甘い誘惑をなかった事にして、不意に小夜の体を付き離し、辛

そうな瞳を伏せてしまう。


ある一定の距離で、二人を包む空気が濃密なものへと変わろうとすると…彼はそれを敏感に察して

…それ以上、小夜に発言を許さない静かな表情で、一人背を向けてしまう。


そして今夜も…。


いつも彼は小夜が寝付くまでは必ず傍に居てくれるのに、真夜中に目覚めると彼の姿は傍らには無

くて…どこか心許ない気分にさせる。勿論、眠る事のないハジに、朝まで隣に居ろと言う事は無茶

な話かもしれないけれど、それでも小夜の中には満たされない想いが残る。


今夜はとうとう部屋を出て行ってしまった。



私は、本当にハジに愛されているの…?


彼の言葉を疑う訳ではないのに、その愛情をしかと実感できないまま、今夜も時間だけが過ぎて行

こうとしている。
 
もし…
もし…あの時、動物園で私達が生まれた時…。
選ばれたのが私ではなくディーヴァだったなら…。
人として育てられたのが、彼女だったなら…。
きっとここでこうして生きているのは、ディーヴァの筈で…。
あなたは私ではなく、
彼女を愛したの?
……………ハジ…。
 
長い戦いが終わった…全てを終わらせる筈だったあの夜、あっけなく無残に石化する妹の姿を目の

当たりにして、思わず小夜はディーヴァに駆け寄っていた。


触れずとも、微かな空気の流れにさえボロボロと崩れ出す彼女の体を必死につなぎ止めようと、そ

の手を伸ばした。


半ば結晶と化して崩れゆくディーヴァの表情…。


その時になって小夜はやっと気が付いたのだ。どんな事情があろうと、間違い無く小夜にとっては

彼女一人が同じ運命を背負った妹だったのに…。
自分とディーヴァの運命は、どうしてこう捻じれ

てしまったのか…。


本当は話し合う余地があったのではないか…。

どうして殺し合わなければならなかったのか?

もっと別の方法を選べたのではないのか?

それとも、姉妹で殺し合う事が…必ず双子として生まれる始祖の宿命だと言うのか?

今まで考える余裕すらなかった後悔が、一気に小夜の中に生じた。

彼女が事切れる間際になってそんな事に気が付くなんて…。

あの惨い事件が起こるまでは互いの顔すら知らなくても、重い鉄の扉に住む世界を隔てられていた

としても、小夜とディーヴァは仲の良い姉妹であった筈なのに…。


小夜の耳には、今でもディーヴァの呼ぶ『小夜ねえさま…』と呼ぶ声が途絶える事はない。

そして何よりも、ディーヴァと共に命を失う筈だった自分一人が生きている事実に、時折小夜は堪

え切れない痛みを感じていた。


妹の剣が胸を貫いた瞬間、そして刀を握る指先にしっかりと手応えを感じた時、『ああ…これで自

分達は終われるのだ…この長い戦いの日々から解放されるのだ…』と小夜の心はどこか安らかでさ

えあったのに。


ずっと死ぬのなら、愛するハジの手に掛かりたいと願っていた。

しかし、それはハジの心に深く大きな傷を残す事になるだろう…それだけが気がかりだった小夜に

とって、ディーヴァと共にこうして死ねる事が何よりだったはずなのに…。


しかし、小夜の目の前で、ディーヴァだけが砕け散ってしまった。

最期の瞬間、音にすらならない小さな声で、彼女は小夜に何と告げたのか…?

今ではもう彼女の真意を確かめる事すら出来ない。

長い戦いの中で小夜に植えつけられた『翼手は生きていてはいけない』という強い思い。

妹を手に掛け、自分だけが生きている深い罪の意識。

遠い昔、たった一人の従者とかわした約束。

生まれたばかりの双子の姪に何の罪も無いけれど、彼女達を手に掛け、自分もまた命を断つ事が自

分に許されたたった一つの贖罪だと思っていたのに…。


それでも今、小夜がこうして生きているのは、他の誰でもない、愛するハジが『生きて』とそれを

望んだからに他ならない。


思い返せば、いつだって自分は生きていたかった。死ななければならないのは、自分が翼手だから

なのであって、決して自ら望んでの事ではなかった。


ただそれを一途に、そんな身勝手が許される筈はないと、自らにずっと言い聞かせ戒めてきた。

そして同時に、ハジに対する深い思慕の念からもまた目を背けて…。

ジョエルの館で初めて出会ったハジはまだ少年であったのに…。いつの間にか追い越した身長も、

小夜を庇う広い背中も、優しくて大きな掌も、ハジはいつの間にか小夜よりも大人に…大人の男に

なっていた。


本当はずっと好きだった。

もう思い出せない程、ずっと遠い昔から。

もう隠し通せない程、胸が締め付けられる程、小夜はハジを愛しいと思う。

あの長い戦いの日々を、ハジが居なければ自分は今まで生きて来られなかっただろう…。

ハジが居るから、今の自分は存在するのだ。

経験した事も無いのに…。

男女のそれなど、本当は何も知りはしないのに…。

ハジの腕に抱き締められると、小夜はハジを欲しいと思う。 

愛されているのなら、それを実感したい。

身も、心も…。

ハジの腕の中で、自分がここにこうして生きている事を感じたい。

崩れそうな気持ちを預け、自分がここに居ても良いのだと…言って欲しい。

誰も小夜を責めたりはしない。

けれど自分の罪は自分が一番解かっている。

その罪を自分は忘れてはいけない。

罪深い自分が…こんな事を思う事自体赦されないのだろうか…。

それとも、『ハジが欲しい…』そんなはしたない事を思う自分だから、本当はハジに嫌われてしま

ったのだろうか…。第一自分さえ居なければ、彼をこんな戦いに巻き込む事も無く、ハジにはハジ

の…人としての幸せがあった筈なのに…。


そう思うと、小夜の心は千切れそうに痛む。

それでも…。

他の誰でもない…ハジが『生きて』と望んでくれたから…小夜はここに居るのだ。

「私…愛してるのよ。…ハジ…」

ベッドの中で、小夜はきつく自分の体を抱き締めた。

「愛してるのよ…」

その小さな呟きは、誰に届く事も無く…震える様に空気に溶けて消えた。

後にはただ青白い月の光だけが、小夜の切ない想いを照らしだしていた。
 
□□□
 
部屋に戻ると飛び立った時とは明らかに空気の流れが異なる事を、ハジは一瞬にして嗅ぎ分けてい

た。
暗闇にぼんやりと浮かび上がる白い肌。

月の光は不穏にも雲間に隠れ、少女の姿を薄闇に隠してしまっている。


しかし青年の瞳に、映し出されないものなどある筈も無く…そしてまた少女の肌は闇の中でさえ光

を放つが如く清らかに白い。


大きなベッドの真ん中で、彼女はしどけない様子で上体を起こしていた。

出て行く時に脱ぎ捨てたシャツをふわりと羽織ると、彼女の傍らに寄ろうとして…ハジはふと足を

止めた。
翳ったのは月の光ばかりではない、…小夜の表情もいつになく物憂げに見える。

深夜に起こしてしまった事を申し訳なく思うと同時に、ハジを根拠のない不安が襲った。

「…ハジ?」

翼手と言う驚異的な身体能力を有する種族にあって、彼女はその最も血の濃い女王である。

小夜の瞳もまた、シュバエリエであるハジ程ではないとは言え夜目に長けていた。見えてはいる筈

なのに、しかし探る様に『ハジ…』と彼を呼ぶ声はか細く、僅かに震えてさえいた。


「小夜…?」

「こっちへ来て…。ハジ…あなたがドアを開けて行ってしまったから、…冷えてしまったの…」

小夜はベッドの上で身じろぐ事すらなく、白くしなやかな腕をハジに向かって真っ直ぐに差し伸べ

た。
子供の様に甘えてみせる様は、動物園で過ごした頃の彼女を彷彿とさせたけれど、あの頃の無

邪気さは今の彼女には感じられない。どこか、何かが違う…。


あの頃、動物園と呼ばれた広大なジョエルの館で過ごした少年の日々。

十年近い年月を共に暮らしたと言うのに、小夜は決して年を取らず、いつの間にかハジの外見は彼

女の年齢を追い越していた。小夜を姉の様だと慕っていたハジの瞳に、いつしか彼女は守るべきか

弱い少女として映り、気付けば…ハジは一人の女性として小夜を愛していた。


子供の頃から、彼女ただ一人を愛してきた。

そんなハジは小夜のほんの僅かな差異にも敏感で、僅かに緊張を滲ませた声で問う。

「貴女は誰です?」

見た目も声も、何一つ小夜とは違わない。しかし、彼女は小夜と呼ぶには、あまりにもあざとい瞳

をしていた。


「何を言っているの?ハジ…私は…小夜よ」

暖めて頂戴とばかりに、尚もその白い腕を伸ばす。『小夜』と名乗る存在。

「…こっちへ来て。…ハジ…、私を抱き締めて…」

「……………」

ハジは答えようとはせず、切れ長の鋭い瞳を更にきつく少女に向ける。

「ねえ、寝顔もまともに見ていられない程、抱きたいのでしょう?私を…」

そんな厳しい眼差しすら一向に解した風も無く、一転揶揄する様に微笑む。

姿かたちは小夜と変わらない、…いや徐々に雲間が晴れるその一瞬、月光を反射したその瞳は、ハ

ジと同じ深い海の色で…。


「こっちへいらっしゃい。ハジ…」

僅かに声のトーンが高くはないか…。

ハジがそうと悟られないほど、微かに表情を強張らせると、

「ねえ…」

尚も誘う様に『小夜』はするりとベッドから素足を床に下ろした。

白いナイトドレスの裾が、あられもなく乱れ、『小夜』の素足が晒される。

陽光の元には健康的な瑞々しい肌も、月明かりのもとでは白さが増していつになく艶めかしい。

「…貴女が本当に小夜であるなら…、そんな事を…」


言う筈がない。

「小夜よ」

「貴女は小夜ではありません…」

ハジの愛する女性はこの世でたった一人、例え同じ姿で、同じ声であっても見間違える筈もない。

気の遠くなるようなこの長い時間の流れの中で、ハジはただ小夜一人だけを見詰めて生きてきたの

だから。


重ねてハジは否定する。

目の前の、『小夜』と名乗る『小夜』の姿をした少女を…。

「その体は間違いなく小夜のものですが、貴女は小夜ではありません。…貴女の肉体は既に石と化

して、この世界からは消え去ったのです…」


「………………」

毅然とした態度で、しかし信じられない思いで、ハジはその名前を呼んだ。

「…ディーヴァ。貴女は小夜ではありません…」

少女は大仰に溜息を吐いて、くすくすと忍び笑いを漏らした。

「あら…。ばれちゃった。相変わらず…つまらない男ねえ、ハジ…。折角なのだから、小夜姉様が

お眠りになっている間に、二人で楽しんでしまえば良いのに…。私が相手では…役不足かしら?何

も知らない小夜姉様より…きっと楽しませてあげられるわ…」


「小夜を侮辱する事は許しません。例え、貴女が小夜の妹君なのだとしても…」

冷静な口調に、明らかな怒気を含んだハジの台詞にも、小夜の体に宿ったディーヴァに動じる気配

はない。


うふふ…と口元を綻ばせた。

「ええ、そうね。私は小夜姉様の妹。もともと私達は一粒の細胞だったのよ。それが、ねえ…」

どうしてこんな事になったのかしら…?と嘯いて、またくすくすと笑う。


「ねえ、元々一粒の細胞だった私達だもの、離れていてもお互いの事は良く解かったのよ…。あの

頃から…」


「……………」

白い掌を月の光にひらひらと翳し、ドレスの裾を靡かせて、ディーヴァは舞う様にくるりと床の上

を移動する。

軽やかに…まるで体重を感じさせないそれは生前の彼女の所作そのものだったけれど、ハジはそれ

を知る筈もない。


「小夜姉様…つまらない男を愛してしまったのね…」

青い瞳が宙を見詰める。その先には既にハジの姿など映ってはいない様にも見える。

「目的は…何なのです?」

そう尋ねながらも、ハジは今…目の前に存在する『ディーヴァ』という存在に戸惑っていた。

これは小夜なのか?


まさか…本当にディーヴァが蘇ったのか?

それとも、これは自分の弱い心が見せる幻なのだろうか?

目を閉じて深呼吸をすれば、瞬く間に消え去るのだろうか…?

「うふふ…目的ですって?面白い事を言うのね…。…決まってるわ、小夜姉様に復讐するのよ…」

「させません…。小夜を傷付ける者は誰であっても…私が」


ハジの間髪を入れぬ言葉に、ディーヴァは瞳を細め、声を上げて笑った

「本当に可笑しいったら…。お前がそんな事を言うなんて…。小夜姉様を一番傷付けているのは誰

なのかしら?」


小夜の姿で、彼女はハジを嘲る様に吐き捨て、伸ばしかけの髪を指先に巻きつけながら、軽やかに

ハジの背後に回る。


一瞬の間に、ディーヴァが視界から消えてハジの背後に回り込むと、彼は思わず息を呑んだ。

肩甲骨の窪みにそっと唇が押し当てられる。

湿った吐息が笑い、そして囁く。

「その生命力はともかく…小夜姉様の心は…もっとずっと脆いのよ」

「何を…」

解かっている癖に…少女は笑った。

背後からディーヴァの白い指がハジの胸にまわり、肌蹴たままのシャツの下に潜り込む。

「ほら、小夜姉様の指よ…。どう?」

擽る様に、薄い爪先がハジの皮膚を掻く。

同時に、ハジの背中に強く体が押し付けられる。

柔らかな乳房の感触が、薄いシャツの布越しにはっきりと解かる。

ハジはきつく眉間を寄せ、その刺激に耐えながら胸を弄り続ける『小夜』の腕を掴んだ。

「こんな事をして…何になると言うのです?」

「本当は、解かっているんでしょう?今更、臆病なふりをする事はないのよ。興醒めだわ…」

彼女が言葉を発する度に、ハジの背中に熱い息が当たる。

「人間の言う平和が、小夜姉様の肩に掛かっていたと言うなら、それはつまりお前の肩にかかって

いたという事…。お前は…小夜姉様のたった一人のシュバリエとして…この世で一番強い力を持ち

ながら…最後までその力を放棄し続けた…。翼手である事を…拒み続けた…」


「………」

「…そして今も。………お前は自分の本能に素直になろうとはしない…」

「……何が」

「…小夜姉様を一番傷付けているのは、お前よ…」

その言葉が、深くハジの心に突き刺さった。

誰よりも、何よりも大切な存在である小夜を、ハジ自身が一番に傷付けている…。

それを否定するだけの言葉を見つける事が出来ない。

ハジの心の中にある小夜に対する劣情を…ありのままの自分を晒せば、小夜を傷付けてしまうので

はないか…それが怖くて、小夜にそれ以上触れる事が出来ない。


そして何より…ありのままの自分を晒して、小夜に拒絶される事が怖いのだ。

「…癇に障るのよ。ハジ…小夜姉様も、お前も…。永遠とも呼べる命を持ちながら…人類を凌駕す

る大きな力を持ちながら…自ら翼手である事を否定するなんて…矛盾しているの、馬鹿げてるわ。

全て綺麗事ね…」


小夜は生きる道を選んだ。しかしそれは翼手としてではない。

人の社会の陰で、ハジと二人…ひっそりと生きていられればいい…そう言って儚く微笑んだ小夜。

人の血を摂取しなければ命を繋ぐ事の叶わない自分達が、こうして人に紛れて暮らしているという

事が…?


綺麗事だというのか?

しかしより深くハジの胸を抉ったのは矛盾という言葉だった。

自分の中にある深い小夜への愛情は、同時に小夜を傷付けるものではないのか…。

「…………小夜姉様は、何もかも持っている。私が欲しくて、欲しくて…心の底から欲しくて堪ら

ないのに、手に入らなかったものを…」


そう言って、ディーヴァは掴まれた反対の腕で、ハジの胸元を撫でた。引き締まった筋肉の束を辿

る様に指を滑らせて、下腹に指を置く。


ハジは小さく喉を嚥下した。

「言ったでしょ?私と小夜姉様はもともと一粒の細胞だったのよ。………それなのに、どうしてこ

んなに不公平なの…?私は…」


指の動きは止まない。ハジの理性を溶かす様にゆっくりと蠢いている。

「…お前も小夜姉様も…ただの男と女に過ぎないのに…もっと自分の体に素直におなりなさい」

崩れそうになる理性に縋って、ハジは心に強く小夜を想った。


どんな時も、どんなに辛い状況でも、ハジに力を与えてくれるあの優しい笑みを…。

惑わされてはいけない。最もらしい言葉を並べて、ハジを誘惑する…その劣情につけ入る様にハジ

を籠絡しようとする…しかし、こうして自分に触れる肉体は確かに小夜のものなのだ。


その指も、肌も、柔らかな乳房も…

あの晩、あの最期の戦いの夜、ディーヴァは確かに小夜の血を受けて石と化したのだから…。

惑わされてはいけない。

「……我慢しなくても、良いのよ。私は…小夜姉様であり、小夜姉様は私でもあるのだから…」

まるでハジの思考を見透かすように、再びディーヴァが笑った。


「……………それで…。私をどうしようと言うのですか?」

「小夜姉様から…お前を奪うのよ。小夜姉様の大切なお前を奪えば……」

お前を奪われたら…きっと小夜姉様壊れてしまうかも知れないわ…と。

「その様な事で…。…例えその様な事に及んだとしても、私の全ては小夜のものです。この身も…

心も…。ディーヴァ。………ディーヴァ、…いえ小夜…」


「…私はディーヴァよ」

「……小夜」

「…ッ、ディーヴァだって…言ってるじゃないっ!!」

「…小夜っ!!」

思わず、激情に流される様に…ハジはきつく握り締めた細い腕を強く引いて、体を捻るとその華奢

な体を腕の中に抱き締めた。


冷え切った少女の体を温める様に、深くその胸の内にかき抱く。

「…ハジ、何も違いはしないのよ。私も…小夜姉様も…」

その声の震えを…覗き込んだ瞳が僅かに揺れるのを、ハジは見逃さなかった。

「…私は、小夜じゃ…ないわ…」

「違うっ!!違いますっ!!……貴女は小夜です。…私が愛する小夜を…。私が…貴女を見間違え

ると思いますか?罪の意識に飲まれて…自分を見失わないで…」


「……違うっ!違うっ!!」

「小夜…目を覚まして…。私が愛するのは貴女一人…」

小夜です。
間違いなく、貴女は…
私の…。
 
きつく噛みしめて色を失ったその唇を、ハジはそっと塞いだ。唇が噛み切れたのか…僅かに血の味

が染みる。
堅く閉じた唇を、優しく解く様に舌先で辿って…ゆっくりと侵入を果たす。

ざらりと濡れた舌を絡ませると、いつの間にか…ハジのシャツの袖をきつく握り締めていた細い指

が、力なく垂れた。

恐れていた。
ずっと……
自分自身の心の奥底にすくう獣の存在を…

いつ暴れ出すかも知れない…その獣の気配を常に意識しながら…


気が遠くなる程長い、この時の流れを…生きてきた。

小夜を愛すれば愛する程…

自分が人ではなくなってゆくような恐怖感が胸を締め付ける。

いつか、自分を抑えきれなくなった時…

何よりも大切な小夜を…

自らの手で傷付けてしまうのではないか…

深い口付けを受けるうち、いつしかぐったりと小夜は意識を失っていた。


愛しげにその前髪を払い、ハジは小夜の体を抱き上げるとそっとベッドに運んだ。

シーツはすっかり冷え切っていた。
ハジは小夜の体をベッドの中央に下ろすと、血の気の失せた白い頬に指を添えた。シュバリエの青

年にとって、主…小夜はまさに犯すべからざる絶対的な愛の対象でもあり、彼女を護る為に自分は

存在するのだという頑なな意識は、長い間ハジをより理性的にさせていた。


大切で、大切で、大切にし過ぎるあまり、ハジは見失いかけていた。

小夜はハジの主であると同時に、繊細な心を持った一人の女性だという事を…。

仕組まれた事とは言え…ディーヴァを解き放った罪を問われ…、自らの命を投げ捨ててまで実妹を

打たねばならないなど…、それは少女の肩にどれほど重い枷だった事だろう…。


最初から他人に任せる事など出来る筈もなかった…。


その枷を、外すのだ。

自分にしか出来ない。

彼女のシュバリエとして…

いや、彼女を愛する一人の男として…。

それが、あの瓦礫の下から蘇った…自分の命に与えられた意味なのだと…。
 
□□□
 

ハジは覚悟を決めたように、そっとその肩先に触れた。

細い肩…自分とは比べようも無い華奢なつくりの…丸みを帯びた女性の体。

刀を振るうにはずっと不向きで、触れれば折れてしまいそうな…印象。

しかし戦う事だけが、長い間ずっと彼女の意志だった。

シュバリエとして主の意思を尊重しながらも、じっとその小さな背中を見守る事はハジにとってど

れ程辛かっただろう。


思わずその腕の中に抱き締めて、彼女を傷付ける全てのものから護りたかった。

長い間…固い意志の力で、強い理性で、その衝動を抑え込んできた。

白いシーツに散る柔らかな黒髪…丸く形の良い額…意志の強い眉、長い睫毛には涙が滲んでいた。

壊れ物に触れる様に優しく、ハジは指先でその涙を拭った。


どんな夢を見ているのか…決して弱音を吐かない小夜はいつもこうして夢の中で泣くのだ。

あの戦いが終わってもう三十年も経つというのに…。

「…小夜」

密かな声で、小夜を呼ぶ。

泣かないで…
この命よりも大切な人…

「小夜…。起きて…」


肩先に触れた指に、微かに意志の力を込めて…そっと揺り起こす。

これ以上、夢で涙を流さない様に…。

ゆっくりと小夜に目覚めを促す。

薄らと閉じた白い瞼、微かに震える長い睫毛…凍りついた時間がゆっくりと氷解し動きだす…、凍

てつく秒針が時を刻み始める。


あの悲劇の日から…止まっていた二人の時間が…再び流れ始める。

小夜の瞼がうっすらと開き、濡れた瞳が覗いた。

締め付けられるような胸の痛みに耐えながら、その瞳に微笑みかけた。

ぼんやりとした瞳が次第に眠りから覚めてハジの姿をとらえると、小夜は微笑とも、泣き顔ともつ

かない…複雑な表情を浮かべた。小夜の伸ばしかけた髪を指先で払い、白い頬にそっと掌を添わせ

て唇を寄せると、長い体を折る様にして跪いた男の首筋に華奢な腕が絡み付く。


優しい力でハジを抱き、労わる様に…緩やかに波打つ黒髪の束を細い指が梳いた。

「小夜…」

「………ハジ?」

触れるだけの口付に、問い掛ける様に語尾が上がる。

一瞬の後、思いがけず覗き込んだ小夜がうっとりと微笑んだ。

「………お帰りなさい…。ハジ…」

鈴を転がす様な、優しい響き…。首筋に腕を絡み付けたまま、そっと微笑む。

「……気付いていたのですか?」

ハジが密かにこの部屋を出て行った事を…。

そのまま傍に居れば抑え切れなくなりそうな体の熱を冷ます為に…。

「…ん。だって、窓が少し開いていたから……」

ハジは目線だけを上げて、ああ…と小さく頷いた。

「すみません。小夜…貴女に心細い想いをさせてしまいました。寒くはありませんでしたか?」

「……良いの。こうしてハジが帰って来てくれたから…」


そう囁く吐息がハジの首筋を掠めた。

華奢な体。

何度も抱き上げた…その折れてしまいそうな儚さの前で、いつだってハジは無力だった。長年の、

まるで底の無い淵の様な深い欲望のままに抱き締めたら、壊れてしまうのではないか…と、恐れて

いた。こうして肌を寄せているだけでも、その甘い香りに目眩がしそうだ…。


今までずっと、喉の奥から手が出る程欲していながら…けれど自分の欲望のまま触れたら壊してし

まうのではないかと恐れていた。


その笑顔を失う事を…。ありのままの浅ましい自分を小夜の眼前に晒して、彼女に嫌われる事を…

彼女を失ってしまう事を恐れていた。


しかし、愛していると囁きながら…心を開けず、その肌に触れようともしないハジの曖昧な態度こ

そが、彼女を傷付け、自らの中に亡くなった筈の妹の幻を宿すまで…追いつめていたのかも知れな

い。


「…少し頭を冷やして来たかったのです…」

「…ハジ?」

それをどんな意味に取ったのか、小夜は曖昧に笑っただけだった。

さらりと腕が解かれる。

「ハジ…あのね…」

と、思い切るように小夜がハジに語り掛ける。その声は、先程まで…ディーヴァと名乗った彼女と

はかけ離れて静かな声音だった。


「…何です?小夜…」

「不思議な夢を見たのよ…。ディーヴァが…生きていて、……私に言うの。あんな優柔不断な男は

止めなさい…って」


ハジは微かに口角を上げて見せた。

「………それで?」

「…夢の中で、私達は昔みたいに仲の良い姉妹でいられたの…。私…ディーヴァに言ったのよ。…

それでも、私…ハジを愛しているのって…」


幸せな夢の中でのやり取りを思い出すのかにこやかだった小夜の表情が、不意に真顔に戻った。

「小夜…?」


思いつめたようにハジの手を取って、円らな瞳がハジを覗き込む。

冷えた指先を、ハジは逆に包み込むようにして労わった。どんなにしても、ハジの指先が温もる事

はないけれど、小夜は嬉しそうに瞳を細めた。そしてふいに…ハジを真っ直ぐに見上げた。


「…ディーヴァと私は、元々一つだったのよ。何も変わらないわ…。それなのに…私だけが今こう

して幸せに浸っていて良いの?」


「小夜…それは…」

「あの子は何も悪くはなかったの。ただあんな風に育てられて…一人で寂しかっただけ。もしかし

たら、私がディーヴァだったかも知れない…。偶然あの子が、アンシェルに育てられたから…あの

子はあんな事に…」


「小夜…」

それは、彼女の中のディーヴァが言っていた事だ。

何の根拠も無く、ただ寝かされていた位置でその運命が決まった。

小夜はジョエルの娘として、ディーヴァは生まれたままの姿で塔の天辺に閉じ込められて育った。

もしやり直す事が出来るなら…小夜とディーヴァは、それは仲の良い姉妹に育っただろう…。


まるで、響と奏のように…


有り得もしない空想が、ハジの脳裏にすら浮かぶ。

しかし、もし…等と言う仮定の言葉は、心を空しくするばかりだ。

ディーヴァが小夜の元に戻る事はもう永久にない。

そして、その不幸な過去を否定しては自分達の出会いもまた有り得ないのだから…。

「ねえ、ハジ…もしも、もしもよ。私とディーヴァが逆の立場で…ジョエルの娘として育てられた

のが…ディーヴァだったとしたら…。ハジは…私を愛してくれた?…ディーヴァを愛していたので

はない?」


「小夜っ!」

掛ける言葉を探すうち、小夜が泣きそうな瞳でそんな事を問う。

とうとう堪え切れず、ハジはその体を腕の中に抱き締めていた。

「…小夜。…いったいどうしたと言うのです?それは…」

「ハジ…ごめんなさい。やっぱり、聞かなかったことにして…私…」

答えを聞くのが怖いと、掌で両耳を塞ぐ。

小夜の両手首を捕らえて、優しく引き離しながら…言い含める。

「小夜…。小夜…聞いて下さい。小夜…。もし…貴女がアンシェルに育てられていたとしても、私

は貴女を愛したでしょう…。私が愛しているのは…小夜、貴女一人だけです。例え…私がディーヴ

ァのシュバリエだったとしても…私は貴女を…愛しましたよ」


当然です…と、ハジは小夜の耳元で囁いた。

「…ハジ。ハジ…ハジ…そんな事…」

簡単に言わないで…。

腕の中で小夜が体を捩った。

「小夜…」

抱き締める腕の力を一層強め…小夜の顔を間近に覗き込んで、尚も言い聞かせるようにハジは続け

た。


「小夜…。それを聞きたかったのではありませんか?……どんなに瓜二つでも、貴女はディーヴァ

ではありません。貴女は貴女ですよ…小夜」


黒い髪をゆっくりと指に絡め、そっと唇を落とす。

「…そんな風に自分を責め続けるものではありません…」

自分を許す事の出来ない小夜の気持ちは痛いほど解かるけれど…。

「……だってディーヴァは…」

「最期に…彼女は、笑っていたではありませんか…。共に生きる事が出来たなら…どれほど良かっ

たでしょう…。しかし、彼女は、死ぬ事で…」


永遠に手に入れたのですよ…貴女を…。

「…ハジ」

どこか…ディーヴァを羨ましく感じながら、

幼子に対するかのようにハジは小夜の頬に頬を重ねた。


「……貴女の中に、ディーヴァは生きていますよ。…私は…………、私には…それが解かります…

小夜…」


「……………」

「彼女にしてみれば…私は随分と頼りなく優柔不断な男なのでしょうが、それでも…貴女の中のデ

ィーヴァに誓います…私が小夜を、幸せにします。貴女の中にディーヴァが生きているのなら…私

は貴女の中のディーヴァもまた愛します…小夜。幸せになる事を…躊躇わないで…」


「…ハジ」

「この重荷を…貴女一人には背負わせません…小夜」
もっと早く、こうすれば良かったのだ。

頬を離し、真っ直ぐに覗き込むと…小夜の瞳は、先程にも増して潤んでいた。

今にも零れそうな涙が睫毛に溜まっている。

「シュバリエとして…ではなく一人の男として、貴女を愛しています…小夜。ずっと昔から、貴女

だけを…」


ぽろりと零れた滴を、唇で拭い取る。


いけませんか?と問うと、小夜はハジの肩に縋る様にして何度も首を横に振った。

後から後から零れる涙を、次々と唇で辿る。


切れ切れに、小夜が呟いた。

「…私も…。私も、……愛してる。……愛して…るの。……ハジ」

しがみ付いてくる小夜の体。

鼻先を掠める甘い香り…。

「…貴女を…抱きたい」


不思議なほど冷静に、ハジはそれを告げていた。

「……………」


びくんと大きく背筋が揺れて、腕の中で小夜が全身を緊張させるのが解かった。

怖いと思うのは、ハジもまた同じだった。


小さな肩を抱いた指先が微かに震える。けれどもう、誤魔化し続ける事は困難で…自分の中にある

深い愛情をどうにか小夜に伝えたいと願う…。


自身の中で小夜を求めて荒れ狂う雄の本能を…ずっと恐れていた。

男の愛情は厄介なもので、どれほど純粋に小夜を愛しているのだとしても、それはそのまま肉欲に

直結する一面を否定できない。


ハジにとって、冒すべからざる絶対的な対象である小夜を…。

小夜を傷付けてしまうのではないか…。


小夜に嫌われてしまうのではないか…。

けれど、腕の中で震える小夜を前に、ハジは不思議なほど冷静でいられる自分に驚いていた。

ハジの顔をまともに見上げられないまま、腕の中の小夜が小さく頷いた。

確かな答えを求めるようにそっと体を引き剥がして顔を覗き込むと、小夜は耳までも真っ赤に染め

てハジの視線を逃れようとする。無理に瞳を覗く事は諦めて細い体を胸に強く抱き締めると、女性

らしい丸みを帯びた体の柔らかな質感が急にリアルなものに感じられた。


抱き締めた小夜の体を、ゆっくりと柔らかなシーツの上に押し倒してゆく。

小夜の瞳から涙が零れていた。もう一度、その滴を唇で拭い…肩で息をする様に何度か深呼吸を繰

り返して…ハジは小夜に問う。


「……………嫌では、ありませんか?」

「あ…ハジ…。……私…」

何と答えたら良いの?とでも言う様に、唇を戦慄かせて、そっぽを向いてしまう。

「肌に…触れても?」

「……良…よ」

小さく頷き、消え入るような声が、そう答える。

胸の奥を掻き毟られる様な甘い痛みがハジを襲った。

「小夜…小夜…。…小夜…」

細い体、柔らかな胸元に顔を埋める様にして、ハジは小夜を抱き締めた。体の下で苦しげに腕を伸

ばし、小夜がハジを抱き締め返す。熱の籠った息を吐き、ぴったりと肌と肌の隙間を埋める様にき

つく抱き合うとそれは今までの躊躇いが嘘の様に自然な行為だった。

ずっと…。
ずっと恐れていた、この瞬間を…。
恐れていた…自分自身を…。
自分の心の奥底にすくう獣の存在を……。
自分の中に眠るもう一人の自分が…
愛する小夜を傷付けてしまうのではないかと……。
いつ暴れ出すのかも知れない、その獣の気配を常に意識しながら…気の遠くなる程長いこの時の流

れを生きてきた。小夜を愛すれば愛する程、自分は人ではなくなってゆくような恐怖感が胸を締め

付けて…、身動きが取れなかった…。
いつか、彼女を傷付けてしまうのではないか…。
それが…怖くて…。

「…ハジ。………震えてるの?」


白い指をそっと頬に添わせて、小夜が覗き込む。

ぼんやりとハジの視界が歪み、小夜は何も言わず…ただそっと抱き寄せる様にしてその目元に唇を

押し当てた。


もう…私の事…離さないで…。ハジ…

耳元に囁かれる甘い響きに、ハジは深く瞼を閉じた。


「…………離しません…。離しません…小夜…」

求め合う唇が、しっとりと重なり合う。


うっすらと、東の空は朝の気配を漂わせ始めていた。
 
□□□
 
静まり返った寝室に、柔らかな朝の光が届き始める。

淡い陰影を落とす小夜の体、ハジは薄い衣の上からそっとその柔らかな胸に触れた。


僅かに力を込めて掌に包み込むと、心地良い張りと弾力がハジに応えてくれる。

きゅっと硬く尖る先端を指で擽る様にして摘むと、小夜は大きく背を撓らせて震えた。

じっとハジの与える愛撫に耐えている小夜の姿が健気で胸が詰まる。

甘い波に浚われそうなむず痒さを堪え、ハジは逸らした首筋に唇を重ねてゆっくりとその細い肩か

らナイトドレスを下ろした。


女性らしいなだらかな肩から乳房までの曲線が露わになり、ハジの眼を釘付けた。

腕の中で、白く細い肩が震えている。見惚れる様に動作を止めると、視線に気付いたのか…逸らし

ていた首筋を微かに戻して、小夜が恐る恐るハジを見詰める。


「…じっと、……見ないで。……ハジ」

答える様に肩に唇を落とし、頬を寄せる。

白い敷布に散らばる髪が、頬に掛かる。

指先で整えながら、労わる様に唇を重ねる。

言葉にしなくて、伝わるものがある。

絡め取ろうとする舌先に、小夜はたどたどしく…けれど懸命に応えてくれる。

愛されている事が、こんなに幸せな事だとは思わなかった。

言葉だけでは解かり得ない、それはこうして触れ合って初めて知り得る感覚だ。

ハジは唇を与えたまま、脇に除けたシーツを引くと自分達の体をすっぽりと包み込んだ。

シーツに包まれた事で幾分安心するのか、腕の中で小夜が身をくねらせてハジに向き直る。

「小夜…」

「…好きよ。ハジ……ずっと、……好きだったの」

もうずっと昔。

自分が何者か知らず、心に不安を抱えながらも動物園で無邪気な日々を送っていたあの頃から…本

当はずっと好きだったの…と、小夜の指先がぎこちなく…しかしゆっくりと確かめる様にハジの輪

郭を辿る。


優しい力でそっと触れるくすぐったいような感覚に、胸の奥が温かくなる。

「…私も、あの頃から、貴女をお慕いしておりました…。…小夜」

しかし、だからと言って…易々と触れる事など叶わなかった。

大切にし過ぎて、こんなに尊くて簡単な事を忘れてしまうところだった。

例え今が、始祖とシュバリエなのだとしても…最初から小夜自身は特別でも何でもなく、自分にと

っては護るべき唯一愛しい女性だった事を…。


密着した体をずらし、薄い衣を取り去った肌に触れる…驚かさない様にそっと掌を滑らかな皮膚の

上に滑らせると、小夜はその感触に耐える様にぎゅっと唇を噛み締めて身を捩る。


どうすれば良いのか解からないと言った様子でただじっとハジに身を任せ、自らハジに触れる事す

ら躊躇われるのか、小夜の指先はきつくシーツを握り締めていた。


「お願いです、小夜。そんなに体を緊張させないで…。辛かったら、私に掴まって下さい…」

そんな小夜の指を優しく解き…一つ一つ教える様にして、ハジは自分の肩に導いた。

唇で首筋に触れる。柔らかな感触、うっすらと浮き出た動脈の青白い影、本能を擽る甘い香り。

傷付けないように気遣いながら、そっと牙を立てる。甘く噛むようにして舌を這わせると、強張っ

た小夜の唇から漸く微かな声が漏れ、肩に縋る指先にも力が籠った。


「声…聞かせて下さい。…小夜」

「あ…んぅ…ハジ」

「もっと、呼んで…」

「や…ん、だ…って…。こんな…」

耳を塞ぎたい程の甘い響き…。

やがてハジの唇が乳房に辿りつき頬張る様にして先端を含むと、ハジの唇からは何も聞こえなくな

り、それに代わり堪え切れない小夜の嬌声が断続的に漏れ始める。
 
□□□
 
言葉にならない甘い吐息が室内に満ちる…時間の感覚すら失われる…それはどこか、夢の様な一時

だった。


こんなに傍にいたのに、初めて全身に触れる互いの素肌の感覚。

一糸纏わぬ、生まれたばかりの姿に戻って四肢を絡め合うと、体温の低いハジの体にもじんわりと

小夜の体温が染みてゆく。


包み隠すものなど何もなく、偽る事も出来ず、ありのままのお互いの存在を確かめ合う。

初めて見付ける互いの素顔。

触れて漏れる吐息。

甘い声…、そして上気する肌の色。

ハジの与える愛撫は、小夜に未だ経験のない大きな快感を体の深いところから呼び覚ましてゆく。

もどかしいほど丁寧に、ハジは小夜の肌に触れた。


撫でては反応を確かめる様に、小夜の顔を覗き、唇を与える。

下肢に伸ばした指先が、何度も小夜の濡れた割れ目を辿り、時折そっとその襞を押し広げる。

声を聞かせて…と言われても、とても耐えられない。

「んぅ…あ…んんっ」

小夜がきつく唇を噛むと、嗜める様にハジは反対の指で小夜の唇を割った。

「…ハッ…ジ」

指が離れ、再び唇が重なり合う。

柔らかな襞を広げ、ゆっくりと埋められた指が遠慮がちに抜き差しを始める。

最初に感じた異物感は次第に薄れ、その部分が潤いを増した。水音を立てて…滑るように滑らかに

出入りする指先が、小夜の内壁をこすり上げる。痛みではない、それが何なのか、小夜には見当も

つかない。


ただじりじりと体内の熱が煽られて、じっとしていられないもどかしさが小夜の全身を支配し始め

る。
かっちりとした肩にしがみ付く。翻弄されるままに、抑えきれない吐息が唇から零れ、それを

確かめる度にハジがそっと瞳を細めた。


ふと、小夜を翻弄していた指がその動きを止める。

いつしかきつく閉じていた瞳を開けると、青い瞳が許しを乞う様に覗き込んでいる。

何を…とは言わない。


何を…とも聞けないまま、小夜は首筋に絡めた腕でぎゅっと抱き締め返した。
それが返事であるか

のように、そっと下肢を撫でるハジの掌がゆっくりと小夜の膝を立て、持ち上げる。


小夜の腕の中から抜け出す様にハジが体を離し、小夜の両足を抱え上げた。

そうしてまた、ゆっくりとのしかかってくる。

今まで指が触れていたそこに、何やら硬く大きな物が押し付けられた。

それが何なのか解からない小夜ではない。身を裂かれるのではないか…そんな不安に耐え、為され
るがままハジに身を預けながら、小夜は無意識にその衝撃を備える様に息を詰めていた。

ハジの喉が大きく嚥下する。

しかし躊躇う様に、ハジはすぐには体を押し進める事が出来なかった。

先端を含ませるようにしては身を引き、荒い息を繰り返す。

「…小夜。……愛して…います…。小夜…」

こんなハジを見るのは初めてで、小夜は苦しい体勢のままハジの唇を強請った。

濃厚に絡み合う舌先、唾液が糸を引く様にしてその長い口付けが終わると、小夜は吐息でハジに告

げた。


「……ごめんね。私が…ハジを縛りつけて…しまったのね…」

「…小夜?」

「良いの。…もう、私のシュバリエである必要はないのよ。もう良いの…ただの、ハジに戻って」

「小夜…」


「私は、大丈夫だから…ハジの好い様にして…。私を…ただの小夜に戻して…」

きつい抱擁の下で小夜に抱き締められるまま、ハジがゆっくりと腰を進めると、小夜の唇からは再

び悲鳴にも似た甘い声が零れる。


「…っ!あっ…あぁっ!!あ…んぅ…んんぅ…ハジ…」

「小夜…小夜…。…小夜」

「…あっ、あん。…あっ…ああっん…」

結合が次第に深くなり、やがて二人はぴたりと一つに重なる。

予想した裂かれる痛みより、押しつぶされるような苦しい圧迫感が小夜を苛んだ。

けれど、それを小夜は辛いと思わない。

耳元で、初めて聞くハジの荒い息継ぎが聞こえる。

今まで、ハジが強い自制心の下に隠していたもう一人の素顔を覗かせる。

「…さっ…やっ」

感極まった様に、ハジがその名前を呼ぶ。

互いの胸に、深い愛しさが胸に込み上げてくる。

愛していると…

そして確かに愛されていると…

体よりもずっと深いところで、満たされてゆく。
ハジの中に眠る獣は、ゆっくりと首を擡げながら、しかし今…薄眼を閉じたように穏やかだ。
 
「ハジ…」

覗き込む、潤んだ青い瞳は、昔動物園で見た雨あがりの空の様だ。
一緒に世界中を旅してまわりましょう…と、約束したあの頃。

世界はもっと鮮やかで、希望に満ちていたあの頃。
「…あの頃に…帰ろう…?…ハジ」

「小夜…」       
 
三十年と言う長い時を経て…

今ようやく、その夜が明ける。


二人にとって永遠に続くかとも思われた長い、長い夜が…明けようとしていた。
 
                            ≪了≫


20090323更新
はあああ。長かったです、マジ長かった。
だって書き始めたの、2006年の12月だよ…。放置しすぎ…。
書き始めた当初は、4回連載のつもりで分けて書いていたのですが、この際加筆修正して
全部繋げたのですが…。訳分からない話になってしまったような…。
放置してる間に色々とハジ小夜に対する考え(…と言うか主にハジに対するですが)が
二転三転し、書き始めた時とは微妙に何かがずれてしまったような気もします。
ひとまず終われた事で良しとして、この諸々の反省は次に生かせたらなあ〜と思います。
ハジがどう…小夜がどう…って言う事もあるけど、なんつうか…すっごく基本的な事で
文章の書き方がめちゃくちゃではないですか?と言うような反省もいっぱい。
文章力ないのは今更なので…やはり次頑張ります。
最後まで読んで下さった皆様、どうもありがとうございました!